一週間の野外授業で無事に合格判定をもらった私と兵助は、ささやかなお疲れ様会をしていた。豆腐で。
「意味わかんない。甘味ならまだしも何さ豆腐って」
「うまいからいいのだ」
「まあ確かにおいしいけれども...あー、もういいや」
「ゆきめ、これを食べろ。一日限定10食の絹ごし豆腐なのだ。あーん」
「はいはい、あーん」
あ、普通にうまいわ。もちゃもちゃと豆腐を頬張っていると、トントンと肩を叩かれた。誰だ食事中に茶々を入れるのは。
「ばあ!」
「ぶふぉッ」
「ぎゃあああああああ豆腐があああああああ!!!」
私が思わず吹き出してしまった豆腐は宙を舞い、それを見た兵助が大絶叫した。
てゆーか今のは私悪くないから!!
「げほッげほッ...さ、三郎ぉ...!」
「あっはっは!!汚いなぁゆきめ」
「誰のせいだと...!!」
そもそも、伝子さんの顔がどアップにあったら誰だって吹き出すだろう。
「あぁ、もったいない...」
「ゆきめの反応はいつ見ても面白いな!変装のやりがいがあるよ」
「へーへー、それはどうも」
全く。小さい頃は「ゆきめちゃんゆきめちゃん」とか言って私の後ろずっとついてきて可愛かったのに。いつからこんなに憎たらしくなったのか激しく疑問である。
未だにしくしくと泣いている兵助を放置して、床に散らばった豆腐の残骸を手拭いで拭き取る。
「ゆきめ、怒ったか?」
「怒ってない。呆れてるだけ」
そもそも私たちは幼馴染みという関係があるけれど、私はしがない平忍者の生まれで、三郎はとても力のある鉢屋衆の頭領の一人息子だ。
何が言いたいかというと、幼馴染みというのは単なる肩書きってこと。たまたま家が隣で、私たちが同い年だっただけ。
あーあ、こんなこと考えてる私ってなんて馬鹿なんだ。三郎が立場とかそんなの気にする筈ないのに。
「ゆきめ、ゆきめ」
「何さ。変装はもう見てやんないよ」
「いや違くて。今度の休み一緒に帰ろう!父上が久しぶりにゆきめに会いたいって言ってたぞ」
「えー、私学園に残って鍛錬したいんだけど」
「たまには帰れ。お前の両親も心配してるんじゃないのか?」
あ、兵助復活したんだ。
再びもちゃもちゃと豆腐を頬張り出した兵助は、豆腐を挟んだお箸を私に向けながら言った。
...これは、食べろということなのか...?
まぁ拒む理由もないから食べたけど。
「...わかったよ、次の休みはちゃんと帰るから、そんなにくっつくな」
「いいじゃないか。私とゆきめの仲だろう?」
「...はぁ、」
少しでも暗器使いとしての力をつけたかったのに。
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