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「ただ今帰りました」


久方ぶりに帰ってきた実家は変わらなかった。
うっわぁ、懐かしいなー。何年ぶりだろ。あ、お向かいのおばあちゃんちの犬っころ、あんなデカくなってんのか。昔はとんと小さかったのに。


「おー、ゆきめ!おかえり!」

「父さん、ただいま」

「お前ってば、文でいくら帰って来いと催促しても帰ってこなかったのに、どうしたんだ?」

「別に。友人がたまには帰れとうるさいから」

「そうかそうか!まあ今日はゆっくりしていけ!そのかわり、明日は畑仕事手伝えよ」

「わかってるよ」


ぽんぽん、と私の頭をなでてから父さんは桑を担いで去っていった。
ムズ痒いな...

とにかく、一先ず荷物を置こう。少ししたら三郎がやってくるだろうから、お茶菓子も出しておいてあげよう。
私超優しい。


「ゆきめー!」

「いらっしゃい、三郎。お菓子あるよ」

「まじか、食べる!」


喜々として家に上がり込んで来た三郎は、口いっぱいに大福を頬張ってもちゃもちゃしてた。
しんベヱみたい...


「いやぁ、ゆきめんちも久しぶりだなぁ。ちっとも変わらない」

「相変わらずこじんまりとしてるでしょ」

「そういうつもりで言ったんじゃないって。なんかこう…安心するなぁって思って」

「……そ」

「あ、そうだ。ゆきめさえよかったらなんだが、さっそく父上に会いにいかないか?さっき帰ったら「なぜゆきめがおらんのだ!」とか言って、実の息子よりお前が帰ってくるのを楽しみていたんだからな」


頭領、三郎のお父さんには小さい頃からすっごくお世話になっていた。もともと頭領は子供好きなのもあって、村の子供たちと遊んでいるところをたまに見かける。まぁ、その度に部下の三嶋さんに連れ戻されているんだけど。私自身三郎の家に遊びに行ってはよく構ってもらったっけ。


「…たは、ははッ!頭領は変わんないなぁ。わかった。どうせ明日は父さんの手伝いでどこにも出かけられないだろうから、三郎さえよければ行こうかな」

「やった!よし、なら早く行こう!」

「あ、ちょっと待ってよ!」


ぐいぐいと引っ張ろうとする三郎にストップをかけて止まらせる。やっぱり不満顔をした三郎に溜息を吐きつつガマ口の財布をぽーん、と上に放った。


「他所様の家に上がるときは手土産を用意するのが当たり前」

「ゆきめはもう家族同然なんだからいらないだろ」

「常識だよ。いいからいいから。私が持っていきたいだけなんだから、ほら行くよ」


渋る三郎を今度は私が引っ張っていく。すごく渋っているけど、親しき仲にも礼儀ありって言うじゃない。
まぁ、三郎自身釈然としていなさそうだけど。


「ねぇ三郎」

「んー?」

「忍術学園を卒業したら、あんたはどうするの?やっぱり頭領の跡を継ぐ?」


うーん…そうだなぁ。
空を見上げた三郎に釣られて私も顔を上げる。まだまだ沈む様子を見せないお天道様にく、と目を細めた。眩し…。


「一応父上の子供は私だけだし、そのつもりで忍術学園に入学したからな。そうなると思う」

「そっか」


みんな、少しずつ自分の将来を見つけ出している。私はどうしよう。どこかの城に勤めてもいいし、フリーで活動するのも悪くはない。けど、安定したいのならやっぱり城に就職するのが一番無難だろうか。
うむ、わからん。


「な、ゆきめ」


うんうんと考え込んでいると、三郎がちょんちょんと頬をつついてきた。なんだねお前さんは。


「お、お前さえよければなんだが…その、」

「その、何」

「だから、えっと…」


珍しく歯切れが悪いな。一体どうしたというんだろう。心なし顔も赤いような…
あ、もしかして…


「三郎…」

「ッ、な、なんだ…」

「もしかして、熱中症にでもなった?」

「………………は、」

「それが本当なら大変だよ!早く用を済ませて頭領んちに行かないと!」

「え、ちが…」

「熱中症は油断したら危ないんだからね。早く行こ!」


「……はぁあ…」


難しいもんだ、と零した三郎の呟きは、慌てふためいていた私の耳には入らなかったのだった。