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知ったような口きかないで



次の日から天気予報は晴れ。
当然毎日、空模様は晴れ。

先日のようなラッキーは起きそうにない。
会いたくないなんて強がりはもういいの?なんて笑わないでほしい。

あれ以来、目を閉じれば西谷の横顔を思い出してしまって自然に頬が緩んでしまいそうになるので、必死に我慢している。と、菅原が話しかけてくる。

「ミョウジー!」

着ているカーディガンの裾でにやけそうになる口元を抑えるように平静を装って菅原を見ると、何やら眉根を寄せて少し怒っているみたいに見えた。

「この間雨の日、西谷と相合傘してデートしてたってマジかよ?」

「ん?あれ、見てた?」

うわあ、あんなとこ見られてるとか恥ずかしいと思わなくもないぞ。
私からしたら世界にふたりきりになったみたいだとかロマンチックなことを考えていたんだけど、傘なんて何の盾にもなりはしないし、当然よそからは丸見え。
なのでもしかしたら菅原も近くにいたのだろうか。だとしたら声掛けてくれたらいいのに、なんで何日も経った今更?

「いや、噂で聞いただけ!ミョウジが一年と相合傘で腕組んで帰ってたって」

「へぇ。世間って怖!誰が見てるかしれないねぇ」

私の反応を見てどうやら本当のことだと悟ったらしい菅原は、

「ミョウジ、最近やけに西谷に構うな」

探るような瞳で言う。

元来私は潔子以外の人間に特別肩入れしないので、菅原は勘付いたのかもしれない。
私が西谷に抱く感情に。

菅原は西谷や潔子にチクったりするような奴じゃないし、もちろん他の人に言ったりすることもないとわかってる。

でも、だからと言って素直に惚れたなんて言えるわけじゃない。

だって他人から見たら馬鹿みたいじゃないか。
好きな人がいる人を好き、だなんて。

「西谷ってさあ、反応が面白すぎてからかい甲斐あるの」

そう言ったのは、本心でもあった。
嘘は言ってない。
彼の慌てる顔、照れておかしくなる言動、赤く染まる頬。
すべてが私の悪戯心を擽る。

恋心を自覚する前にも、今まで何度も面白がって困らせた。

「テスト初日に傘忘れたっていうから入れてあげたんだけど、腕組んだだけで真っ赤になっちゃってー」
「ミョウジ、」

悪い顔をして笑う私を、菅原は少しきつい口調で制止する。

あ、やべ、怒らせた?
西谷は菅原からしたら部活の後輩でチームメイトだ。
きっと私には計り知れない類の絆とかがあるのだろうと思われた。

私が西谷を弄んでると思ったらそりゃあ怒るのだろう。
美しき友情?先輩としての義務?上手く言えないけれど、多分そういった感情から。

「俺はミョウジがそういう楽しいことに目がない奴だって知ってるし、人をからかうのが好きなんだってわかってるけどさ、こないだも言ったろ?西谷の気持ちだって考えてみろよ」

そう言った菅原の瞳は真剣そのもの。私に怒っているのもあるだろうし、西谷を心配しているのもあるだろうし、2人共通の知り合いである自分の義務として私に西谷をからかうのをやめさせたいのだろう。

「大体、ミョウジは美人なんだから普通にしてたって男なんか」

菅原のお説教モードはどうやら一言じゃ終わらないらしい。
きっと前から言いたかったことを思い切って言ったのだろう。

私も一言ならテキトーに流せばいいやなんてちょっと酷いことを思っていたけれど、ぐちぐちと続けられるうち、次第にイライラしてきた。

「いっつも言い寄ってくる男なんかたくさんいるんだから、その中からからかう奴見つけるなりちやほやしてもらえばいい」
「うっさい!!」

呆れた顔のままお説教を垂れ続ける菅原を睨みつけて、語気を強めた。

菅原が驚いてポカンとした顔で見つめ返してきたけれど、

「知ったような口きかないで。菅原に関係ないし、私のことなんか何も知らないくせにお説教とかいい加減にして」

そんな菅原のアホ面なんて毛ほどの気休めにもならない私は、吐き捨てて席を立つ。

「ミョウジ?!」

教室中の注目を浴びていたし、菅原が呼び止めたのも聞こえたけれど、振り返らなかった。

もうすぐ授業が始まる。
そんなことはわかりきっていたけれど、これ以上菅原に責められたら、気がどうにかしてしまいそうだった。



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