碧空と向日葵 | ナノ







 駄菓子屋近くの公園で缶蹴りをする子供たちを、ベンチに座りながら眺める。どうやら金造さんがまだ見つからないらしく、彼らは血眼になって彼を探しているようだ。無邪気なその様子に微笑ましさを感じながら、私は先日の駄菓子屋で買ってきた30円のスポーツドリンクを飲んでいる。帽子に半袖にパーカー、下は短パンにスニーカー。動きやすさ重視の格好は必然的に露出も多く、日焼け止めは念入りに塗ってきたが日焼けは免れなさそうだ。

 志摩さんからメールが届いたのは、昨日の夕方。朝方に出会い仲良くなった美人さん、宝生青ちゃんとのメールをしていたら突然届いたので、焦って携帯を落としかけてしまった。メールの内容は至ってシンプルで、場所と時間、そして動きやすい格好をしてこいとのこと。分かりました、と返信すると、ほな明日な!と大量のびっくりマークつきで返ってきて、それがなぜかとても嬉しかった。



「姉ちゃん、そこらに金造見えへん?」

「ん?……んー、ごめん、ね。ちょっと見えないや」

「そか!」



 そう言ってからりと笑い、休憩、と隣に腰掛けたのは、一昨日駄菓子屋で志摩さんに勝負を挑んだ男の子である。名前は風太くん。小学一年生のわんぱくな少年だ。そして驚いたことになんと彼、あの八百屋のおじさんの息子さんなんだそうだ。言われて見ると顔立ちもそうだが、快活な言動が似ているような気がする。
 足をぶらぶらさせている彼に人数分買ってきたスポーツドリンクを差し出すと、「さんきゅ!」と受け取ってくれた。並んでそれをちびちびと飲んでいる中、風太くんがいろいろな話をしてくれる。おじさんのこと、たまに仕事を手伝うこと、志摩さんはよくこうして遊んでくれるってこと。



「……ふふ、風太くんは志摩さんが大好きなんだね」

「ん?……まあ金造ガキやしな!姉ちゃんも、金造んこと好きなんやろ?」



 風太くんの言葉に、一拍置いてふむ、と考える。好きか嫌いか問われたら、当然好きだ。でも、それよりも。



「……志摩さんは、憧れ、かなあ」

「あこがれ?」

「うん。」



 向こう側で、子供たちが志摩さんを探す声が聞こえる。志摩さんは子供たち相手にも全力で逃げるし、隠れる。大人げないと思われるかもしれないが、こうして全力を出してくれるからこそ、子供たちも楽しんでいるように思う。
 いつだって視界に飛び込んでくる、鮮やかな人。私の中の志摩さんは、そんな感じ。



「あ、せや、金造はな、祓魔師なんやで!」

「……そうなの?」


「ほあ、かなちゃん祓魔師知っとるんか?」

「知り合いに祓魔師さんがいるんで……って、え、志摩さん?」

「あっ!金造!!」



 ベンチの後ろからひょっこりと顔を出した志摩さんに、風太くんが立ち上がり指をさす。そうか、志摩さんは祓魔師なのか。ということはあの洋風混じりの袈裟は、祓魔師の制服に違いない。なら同じような服を着ていた青ちゃんも祓魔師さんなのかもしれないなあ。そんなことを考えながらこの間と違ってシンプルなTシャツとサルエル姿の志摩さんをまじまじと眺めていると、こてんと首を傾げられてしまったので慌てて視線を逸らした。
 志摩さんにもスポーツドリンクを渡すと、「ありがとお!」とにかっと人好きする笑顔が返ってくる。私も、こんな笑顔ができたなら。憧憬と感謝と、少しの劣等感と。きっとこれが私の、素直な志摩さんへの感情だ。

 どうやら風太くんと喋っているうちに、缶蹴りは一段落したらしい。子供たちもみんな、こちらに向かってくる。彼らにもお疲れ様、とスポーツドリンクを手渡しながら、汗だくな彼らに微笑ましさを覚える。



「……かなちゃん、楽しそうやな」

「え?」

「なんや、その、優しい顔しとるから。子供好きなん?」



 子供が好き、なんて考えたこともなかった。第一、地元ではこんな風にたくさんの子供たちと付き合う機会すらなかったのだ。私、子供好きだったんですね。思わず口にすると、志摩さんに「なんやのそれ、」と笑いながらぽんと背中をたたかれた。
 自分でも知らないことがたくさんある。それに気付きはじめたのは、この人のおかげだ。いつの間にか隣に腰掛けていた志摩さんを見上げて「ありがとうございます、」とはにかむと、彼はまたこてんと首を傾げていた。
 理由が思い当たらないらしい志摩さんにまた笑いながら、よし、と気合いを入れて立ち上がる。ベンチのすぐそこにあるごみ箱に飲み終わったごみを捨てて、公園の真ん中に転がる缶に向かう。缶を立てなおしてその前にしゃがみこむと、意味を理解したらしい志摩さんと子供たちがわいわいとはしゃぐ声が聞こえた。その輪の中から離れた風太くんが私の隣にしゃがみこんで、「姉ちゃんどんくさいから、一緒に鬼やったるわ」と笑う。生意気な彼にありがとう、とへらりと笑って、私は膝に顔を埋めて数を数えた。


 残念ながら缶は、志摩さんの見事なスライディングによって放物線を描いてしまったのだけど。



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