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「ん……、あ、れ?」



 どうやら気を失っていたらしい。少し痛む体をさすりながら、体を起こす。目が覚めたそこは、どうやら花畑の中だったらしい。って、ま、まさか……。
 思わず、自分の頬をつねった。痛い。しっかり痛い。



「よ、良かった……」



 ちゃんと自分は生きているようだ。流石にまだ、死ぬわけにはいかない。ひりひりと痛む頬をさすりながら、ほっと息をつく。すぐ横には、侵入者である少女とルークが倒れていた。何が起きてこうなったのかはわからないが、二人共ちゃんと息はあるし見た限り大きな外傷もなさそうだ。
 とりあえず、状況を把握しなければ。立ち上がり、辺りを見渡す。

 もう真夜中だ。星もない空。それでも目が慣れる必要もないくらいに明るいのは、空にぽっかりと浮かぶ大きな満月のお陰らしい。

 冷静になるにつれて自分が今いる場所になんとなく見覚えがあるような気がするが、結論は出ない。同じような場所に来たことがあるのかもしれない。何せ、花屋の仕事であちらこちらに出掛けているのだ。



「ん……」

「……あら?」



 小さく聞こえた声の方に振り返ると、少女が目覚めたようで、ゆっくりと起き上がっているところだった。初めはぼんやりとしていた彼女はわたしを視界に捉えた途端に、ハッと目を見開いて身構える。



「おはよう。痛むところはないかしら?」

「あ、あなたは?」

「わたしはリア。バチカルの一角で花屋をやっています。あなたは?」



 なんの疑いもなく自己紹介をしだしたわたしに、彼女はびっくりしたらしい。きょとん、と驚きを顔に浮かべる彼女は、なんとも可愛らしかった。はじめはナタリア様より年上かと思ったが、もしかしたらルークと同い年くらいかもしれない。
 彼女はハッとして姿勢を正すと、胸に手を当てて自己紹介を返す。



「私は信託の盾騎士団所属、ティア・グランツ響長です」

「ああ、やっぱりティアさんは神託の盾の方なのね」

「やっぱり……?」

「ほら、服」



 神託の盾の服は、独特なのでわかりやすい。わたしはファブレ家で度々ヴァンさまやその部下を目にしているから、彼女の服もそれと同じようなものだと思ったのだ。軽く説明すれば、彼女も納得してくれたようだった。
 彼女は辺りを見回して先程のわたしのように状況把握を始める。その途中で、まだルークが倒れているのに気付いたようで、ティアさんはその形の良い眉を申し訳なさそうに下げた。



「ごめんなさい、一般人であるあなたたちを巻き込んでしまって……」



 謝罪を述べる彼女の細い指が、悔しそうにロッドをぎゅっと握る。その手が少し震えているのに気がついて、わたしは彼女の手に自分のそれを重ねた。



「……何か、理由があるみたいね?」



 わたしの言葉にコクリと頷くティアさんの目には、決意の炎が揺らいでいる。
 彼女がわたしやルークにその理由を言うことは、きっとないだろう。あくまでわたしたちは部外者だ。そう察したわたしは、理由を問うことをやめる。
 それに、きっと。



「……ふふ、理由は分からないけれど、どうやら原因はヴァンさまにありそうね」

「……え?」



 どうして、と言いたげなティアさんの頭を、そっと撫でてやる。彼女の気の強そうな瞳は、澄みきっている。わたしにはどうしても、彼女が悪人には思えなかったのだ。



「ティアさん、いい子そうだもの」

「へ?そ、そんな理由……?」

「あら、それなりに見る目はあると思ってるんだけど。……それにね、わたしは女のコの味方なの」



 ぱちん、と年甲斐もなくウィンクなんてして見せると、ティアさんはわたしにつられて呆れたように、それでも僅かに嬉しそうに微笑む。



「……ありがとう、リアさん」

「敬語なんていらないわ。その代わり、わたしもティア、って呼んでもいいかしら」

「ええ、――ありがとう、リア」

「うん。よろしくね、ティア」



 ロッドを握る力が緩んだ彼女の手に安心して、手を離す。そのまま流れで握手を交わした。ルークと同じで、彼女も笑うと年相応だ。



「……さて、そろそろルークを起こさなくっちゃ」

「あ!」



 和やかな雰囲気の中、わたしの呟きにティアがハッとしてルークに駆け寄り、その肩を揺する。
 すぐに聞こえてきた久しぶりに聞く気のする彼の声に、わたしはようやく、全身の力を抜くことが出来たのだった。



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侵入者はかわいらしい女のコでした。
リアはフェミニストです。

20130205
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