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 襲ってくる魔物を倒しながら看板や地図を頼りに進み、太陽が真上に来る頃には目的地であるセントビナーに到着することが出来た。……にも関わらず、今わたしたちは街へ入ることも叶わず、街をぐるりと囲む外壁の柱に身を隠している。わたしたちの視線の先には、街唯一の入り口に立つ信託の盾の姿があった。



「なんで神託の盾騎士団がここに……」

「タルタロスから一番近い街はこのセントビナーだからな。休息に立ち寄ると思ったんだろ」

「おや、ガイはキムラスカ人の割にマルクトに土地勘があるようですね」

「卓上旅行が趣味なんだ」

「これはこれは、そうでしたか」



 ……そんなこと、聞いたことないのだけど。大佐とガイの会話を聞きながら違和感に首を傾げたが、ガイが特に掘り下げられたいように聞こえなかったので尋ねるのはやめた。ガイはわたしに何も聞かない。それは彼の気遣いであり優しさであり、そして何より、自分もそうだからなのだろう。一見すると全てをさらけ出しているような彼に存外謎が多いことには、ずいぶんと昔から気付いている。別にそれを無理に問い質す気は毛頭ない。結局わたしも彼と変わらないからだ。
 丁度良いタイミングでティアが大佐に声をかけ街の入り口を指し示したため、彼の意識はそちらへ向いた。もちろんこういう些細なこういったことも彼は忘れやしないのだが、それでも一先ず大佐の追求を逃れたガイにちらりと視線を向ける。特に口を挟まなかったわたしに、ガイはへら、と困ったように笑った。


 さて、ティアが指し示したのは、街の入り口で検問を受ける馬車だった。見覚えのあるあれは、エンゲーブのものだ。馬車の御者が、もう一台が後からくることを兵士に告げている。



「なるほど。これは使えますね」



 大佐の言葉に頷いた。つまり、これから来るもう一台を待ち伏せて乗せてもらい、貨物と共に街に入るのだ。
 ティアとイオン、ガイも頷き馬車を拾うべく、エンゲーブへの街道を遡ることに決まり、柱に隠れるべく下ろしていた腰を上げる。ローズさんがいたら話も早いし助かるのだけど。早速歩き出した皆に一歩出遅れながらそんなことを考えつつコートに付いた砂を落としていると、しゃがんだままだったルークが置いていかれたことに気付いて顰めっ面を作った。



「俺を置いて話を進めるなっ!!」

「……子供ね」



 そんな彼を迎えに来たティアが、腰に手を当てて放った容赦ない一言に、ルークがうっ、と息を呑んだ。……まあ、戻ってきたのがティアなりの優しさなんだろうなあ。何だかんだ面倒見の良いティアとふてくされた様子のルークに苦笑しながら、しゃがみこんだままの彼へと手を差し伸べた。











 身を隠すため出来るだけ茂みの中を選びながら街道を遡りはじめてからそうかからない内に、こちらへ向かってくるもう一台の馬車を見つけることが出来た。ここからなら検閲をしている神託の盾からは見えないし、御者に声をかけて乗せて貰えば無駄な戦闘を避けセントビナーに入ることが出来るだろう。しかし、本当に良かった、と胸をなで下ろすのもつかの間。



「その馬車、止まれ!」

「え、ちょっと、ルーク!?」



 馬車を見つけるなり茂みから荷台を牽く馬の前へ一目散に飛び出して行ったルークを慌てて追いかけた。背後からはティアの深い溜め息が聞こえる。ルークの手首を掴んだ時にはもう遅く、飛び出してきた赤と銀に驚いた御者が反射的に手綱を引き勢い付いた馬を無理やりに止めたのが見えた。
 馬はわたしたちの体すれすれのところで足を止めた。申し訳なさに眉を下げ、手間をかけてしまった御者たちへ謝罪をすべく顔を上げると、わたしは思わず「あ、」と思わず声をあげてしまった。そこに座っていたのは、



「カーティス大佐にリアさんじゃないですか!それに確か……ルークだったかい、旅の人」

「ローズさん」



 御者の隣に座っていたのは、エンゲーブでもお世話になったローズさんだったのだ。まさか本当に彼女が乗っているとは思っていなかったが、彼女がいるなら都合がいい。お互いに面識がある方が、話しはつけやすいに決まっている。



「おばさん。わりぃけど馬車に匿ってくれねぇか?」

「セントビナーへ入りたいのですが導師イオンを狙う不逞の輩が街の入り口を見張っているのです。ご協力いただけませんか」



 早速単刀直入に交渉に入ったルークの言葉たらずな部分をどこまでも補って、ガイが言葉を続けた。



「おやおや。こんなことが起きるとは生誕祭の預言にも読まれなかったけどねぇ」

「お願いします」



 珍しいこともあるものだ、という風なローズさんへ、ガイの後ろから気配なく出てきたティアが小さく頭を下げる。ガイがびくっと体を強張らせ飛び退いたので、その腕を取ってこちらに引いてやった。



「いいさ。泥棒騒ぎで迷惑をかけたからね。お乗りよ」



 ローズさんはわたしたちの顔を見回して、それからにかりと素敵な笑みを浮かべ二つ返事で了承してくださった。皆がほっと肩の力を抜く。大佐が代表して助かります、とお礼を述べた。

 イオンから順に馬車に乗るなか、最後尾で待っていたわたしはローズさんに声をかけられ振り向いた。



「リアさん、少し顔色が良くなったねぇ」

「え、そうですか?」

「まあ自分では分からないものさ。うちの村にきた時は疲れからかあまり調子が良さそうじゃなかったからね、心配してたんだよ。何があったかは分からないけど、良かった良かった」



 心底嬉しそうに微笑まれてしまい、わたしは自分の頬に手のひらをやる。そんなに酷い顔をしていたのかと思うと何だか気恥ずかしくて、そして顔色が良くなったと言われる理由に何となく思い当たってしまい、わたしはルークに急かされるまで困ったように曖昧に笑うしかなかったのだった。



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20130709
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