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 どうやらわたしが離れている間に様々なことがあったらしい。六神将の黒獅子ラルゴに襲われた際に大佐は封印術(アンチ・フォンスロット)をかけられてしまい、ほとんど譜術が使えない状態らしい。ラルゴは倒したらしいが、これが一番辛いかもしれない。戦闘力が半減したようなものだ。それからわたしを襲ったリグレットともう一人に襲われ、船室に閉じ込められたこと。この時点で殺さなかったのは何故かは、大佐でも分からないらしい。なにか意図があるのは確実だが、残念ながら今はそこを考える余裕はない。これは後々考えるとしよう。



「その直前に……」

「どうかしたんですか?」

「……いえ、何でもありません。それよりも」



 何かを言い淀んだ大佐を訝しみながらも、時間もないので追求せずに話を進める。とにもかくにも、六神将に二度も襲われてルークにも二人にも大した怪我がないのは奇跡と言えるだろう。六神将とは、神託の盾騎士団の最高幹部とでも言うべき六人のことだ。大佐と二人話をした結果、少なくともここには四人の六神将が乗っている。まず、大佐たちを襲った黒獅子ラルゴ。それから私が出くわした魔弾のリグレットに、タルタロスを襲撃した魔物を操っている者、それからもう一人にも大佐たちは襲われたらしい。ラルゴを抜いても相手は手練れが最低三人、対してこちらは負傷者が一人に下級譜術しか使えない大佐、戦場慣れしていないルーク。ティアもこれまで譜歌を使って進んできたらしい。満足な状態とは言い難い。
 この少ない戦力で、イオンを救出してここから生きて脱出しなければならない。先を行く二人の数歩後ろで、魔物や神託の盾を警戒しながら大佐と話し合う。



「まずわたしが飛び込んだ方が、」

「いえ、あなたは負傷者です。不意に隙が生まれかねないので一歩後ろから……」



 最初に誰がどうするか。イオンから相手を離したら、どうするか。今回は第五音素が吐き出せるミュウの力を借りた方がいいかもしれない。しかし、わたしと大佐の意見はなかなか纏まらなかった。ルークをどうするか、という部分がぶつかったのだ。後ろに下げておきたいわたしと、わたしが離れている間に何があったのか、完全に一戦力に計算している大佐。一体、いつの間にこんなことになったのか。兎にも角にもルークを危険な目に遭わせるわけには行かないと食い下がるわたしに、大佐は溜め息を吐いた。



「ではお聞きしますが、――今怪我をしているあなたに、ルークを守りきることが出来ますか?」

「……そ、れは、」



 つまり大佐は、四人がかりで奇襲をかけ早々に形勢を逆転しない限りはこちらに勝ち目はないと言いたいのだ。……正直、正論だ。明らかにあちらの方が優勢という現状において、戦力を出し惜しみしている余裕はないに等しい。
 言葉に詰まったわたしを是としたのか、大佐が「良いですね、」と問いかけた。もしも自分がつまらない怪我などしていなければ。ぎり、と歯噛みしたところで、結果は変わらない。わたしは頷くしかなかった。
 そして、時間は限られている。大佐の案を軸にざっくりとした段取りが決まった時点で、わたしは前を行く二人に声をかけて左舷昇降口へ進みながら説明をしていく。ティアが神妙に頷く横でどこか不安げなルークに気がついて、声をかける。



「ルーク、辛い?」

「……別に」

「……ごめんね」

「何でリアが謝るんだよ」

「……ふ、何でだろね」



 平生と変わらないようなふてくされた顔をするルークにへら、と笑った。守りたい。守らなくちゃ、この子供を。
 それからしゃがみこんで、ルークの足元を歩くミュウにもお願いをする。



「今回はミュウにも協力してもらいたいの。大丈夫?」

「はいですの!ミュウ、頑張りますですの!」

「……ありがとう。ルークをよろしくね」



 緊迫した間に似つかわないような明るい声に少しだけ口元を緩ませ、あおく柔らかい毛に覆われた頭をそっと撫でた。



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20130401
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