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「ケリーさん、昨晩はありがとうございました。まさかただで泊めさせていただいてたなんて……」

「いやいや、あくまで詫びだから気にしないでくれよ。こっちも悪いことしたしな。そんじゃリアさん、いい旅を!」

「はい、ありがとうございました」



 朝になって初めて無料で泊めさせて貰っていたことをティアに聞き知り、わたしはケリーさんにお礼をするために宿のカウンターにいた。年下には先に食料や回復道具などを買い出しに行って貰っている。何かご用かあれば、と最後にケリーさんに名刺を渡し、もう一度お辞儀をして、ルークたちとの待ち合わせ場所である村の入り口へと向かう。少し早かったかと思っていたのだが、既に二人の姿はそこにあった。むしろどうやら少々待たせてしまったようだ。



「ごめんなさい、遅れちゃって……」

「いいえ、私たちも今来たところだから気にしないで」

「おっせーよ!……ま、いいや。おい、リア」

「……ん?」



 遅れてしまったからにはルークから何か文句を言われるのも仕方ないと覚悟していたのだが、ほとんど一言で終わり首を傾げる。しかし次いで告げられた言葉に、わたしは首をひねった。



「小さい箱だからな」

「……ん?」



 一体何のことを言っているのだろうか。ルークが突然口にした「小さい箱」に覚えがなくて再び首を傾げると、察したティアが分かりやすく教えてくれた。つまり、彼が言いたかったのはこうらしい。



「えーと、チーグルたちに盗まれた食材屋さんの宝物、っていうのがルークの言った小さな箱で、それを森に行くついでに探す、と」

「ええ」



 なるほど、そういうことか。それにしても、ティアは話をまとめるのが上手よね。頷きながら口にすると、ふい、とそっぽを向いて「ば、ばかなこと言ってないで早く行きましょ!」と先に村を出てしまった。可愛い子だ。
 二、三歩先を進む彼女の後ろ姿を追いながら、隣を歩くルークの顔を覗きこむ。



「ふうん、ルークも許可したのねえ」

「別に好きで探すわけじゃねーからな!」

「ふふ、そうね。……ねぇ、ルーク」

「あ?」



 相変わらず素直じゃないが、今回は結構分かりやすい。きっとルークは食材屋さんに謝りはしなかったのだろう。それでも、嫌なことははっきり嫌だと言うこの子がいつもよりはあっさりと依頼を受けたのはきっと、彼なりの謝罪なのだろう。
 何だか嬉しくなって、笑みが漏れる。



「昨日のリンゴ、美味しかったわね」

「……まーな」




















「ん?あら、お出ましみたいね」



 軽く談笑しながら目的地であるチーグルの森へ向かう道すがら。背後から現れた魔物に気がついて、手の甲に意識を集中させる。瞬間光と共に現れる鉄爪で襲ってきたサイノッサスにひとまず一撃食らわせ、とん、と飛び後ろに回り込み、もう一撃。後はルークたちに任せても平気だろう。よろけながら駆ける魔物をティアの譜術が阻み、最後にルークの一撃が捉える。はい、終了。鉄爪をしまって、一息つく。



「お疲れ様。二人とも怪我はないわよね?」

「ええ大丈夫よ」

「……なあ、おいリア」

「ん?」

「いい加減教えろよ!お前花屋なんだろ?なのになんでンなに戦えんだよ!!」



 不機嫌そうなルークがぐっとわたしのストールを引っ張り自分の方に寄せて、しかめ面をこちらに向ける。そういえば言っていなかったかしら。既に何度もこの三人で戦闘をこなしてきたため、もう説明した気になっていた。いつもならばルークに何かしら提言するティアも今回ばかりは黙っている辺り、彼女も知りたがっているのだろう。ローズさん宅での大佐との会話から彼女がどこか訝しがっていたのも知っている。休憩もかねて二人を木陰に誘い、腰を下ろして彼らを見上げるようにしながら話し始める。といっても、大した話ではない。大した話なんか、しない。



「わたしのお店はね、世界中の花を取り扱っているの。まあ勿論、ないものもあるけどね。キムラスカの人にもマルクトの花を。たまに出先で出会うマルクトの人にも、キムラスカの花を。例えマルクトとキムラスカが諍いあっていたとしても、花を綺麗だと思う心は同じでしょう?」



 腰に掛けている小さな袋から種を一つ出して、手のひらに握る。いくつかの音素を調節して、種に送る。第二音素から第六音素までをある規則に則って送っていくと。



「うっわ!」

「綺麗……」

「でしょう?」



 手のひらの上で育つ、大輪の花。赤い花を二つ付けたそれを地面に植える。この花はもしかしたらプチプリ辺りが喜んでくれるかもしれない。前に森で花を囲んでいる姿を見たことがある。魔物にも花を愛でる気持ちがあるだろうというのは、あくまで持論だけれど。まあ一応チュンチュンのエサにもなる花だし、問題はないだろう。
綺麗に咲き誇る花を、二人はしげしげと眺めている。生まれも育ちも違う二人が、同じような顔をして花を眺めるのだ。だからわたしは、この仕事がやめられない。
 手品みたいだな!と言うルークは、まあ、想定の範囲内だ。とりあえず、と仕切りなおす。



「その花々を集めるためには、これくらいできないと」



 つまり、護身術?
 そうしめたわたしにルークはへー、と気の抜けた返事をよこす。ティアはまだどこか訝しげにしているが、これは軍人の性というものだろう。恐らく最低限は納得しているはずだ。
 彼らの反応にとりあえず安心したわたしは服についた砂を払いながら立ち上がって、二人に声をかける。



「じゃあ疑問も晴れたなら先を進みましょ?明るいうちに用事は済ませたいもの」

「そうね」



 頷いて立ち上がる二人。夜になると魔物が活発化するので、できれば夜間にこの辺りをうろつくのは避けたいところだ。わたしの記憶が正しければ、ここら一帯にはライガが住んでいるはず。群れになって襲いかかられるのは勘弁したい。
 進行方向に目をやると、奥の方に茂った木々とその真ん中にそびえる一際目につく大樹が見えた。目的地であるチーグルの森は、もうすぐだ。



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20130205 加筆
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