Gift | ナノ

赤髪と白い小花
※not連載お嬢さん




『女の子は可愛いものが好きだろ?』

  安直に、シンプルに、かと言って手は微塵も抜きはせず。そういう風に生きている船長は新入りにプレゼントを用意していたのだ。

『ありがとう……でも、私、お世話の、しかた知らない……』

  キラキラ揺れる白がねの髪の彼女は、不安そうだった。
  なんにも知らずに生きてきたこの娘さんは「シャンクス、」と小さな鉢植えを持った船長を見つめていたのだ。
  数ヶ月前になろうか。
  時は過ぎ、今はなごり陽が体のふちを染めている。時は午後四時、冬島の冬。
  らしからぬ、というか他所様がいうなら締まりがないといわれるか……轟く二つ名に似合いの船の船尾にはなんともまぁ、可愛らしい花壇が並んでいた。

「……板に着いたなァ。」
「そ、う……?」

  キラキラと白がね、ハラハラとくれない。
  目出度い色合いの二人は船尾で風に吹かれていた。
  親子では無い、がそれに近しいものはある。この船長が行き倒れの彼女を拾ったのが出逢いであるからして……刷り込みされた雛とは言い得て妙なのかもしれない。ぽやっとした物静かな娘さんなのは性格なのかさてはて。
  彼女は不思議なくらいに物知らずであった、が。この船長は別段気にするでなく大笑いして「なら覚えりゃいいさ」とさっくりまとめてしまった。そして、今に至る。

「面白いだろう、そいつは。」
「うん……いろんな色で。」

  最初は白の、小さな一輪だけが咲いていてまるで自分のようだ……と瞬きしたのが嘘みたいだった。今は騒々しい程賑やかに色とりどり大小さまざまの花弁達が花壇に並んでいる。娘の手には如雨露、対して船長は手ぶらでのそのそこの小さな『彼女の花壇』に訪れていた。
  彼女が育てて、ここまで大きくしたのだ。勿論この船長から始まり知識豊富な副船長や手先が器用な狙撃手に教えてもらいながら。

「育て易くて潮にも強い。」

  大海賊の船長はにっかりと笑って白がねの髪をわしゃわしゃ撫でるのだ。「同じ株なのに咲く花の形は違う」と教えてもらったのは二つ目が開花した時だ。
  あまりそうワシワシされたら如雨露の水が零れちゃうんじゃないかしら、とそれでも振り払うわけもなくなすがままに仔犬のそれの様に、彼女は甘んじる。
  とても心地いいからだ、この船長の掌が。いやこの赤髪のシャンクスの存在そのもの、彼が纏う空気が。

「海賊にお誂え向きだ。」
「だから……私に、プレゼントしてくれた……?」
「自信をつける事は良い。だろう?」

  きっとこの一言には色々な意味があるのだろう。
  シンプルに生きている男は随分難しい生き方をしている癖にあっけらかんと微笑う。

「うん。……つけられる、かはわからないけど……出来るだけは。」
「はは、なまえは正直モンだ、あァそれでいい。ゆっくりでいい。」
「うん。」
「それにな。なにより……」
「なにより?」
「なまえに似合う!」
「……ふふっ。」
「よし、笑ったな。」

  ワシワシと頭をこねくり回す船長はうっそりと目を細めるのだ。子供を持ったら、さて、こういう気分になるのだろうか。女、にしてはこの娘はあまりにも純粋無垢で……手を出す、のは少々憚られる。
  今は。

「……おっかない保護者じみたのもいるし、なァ。」
「どうした、の、」
「ん?……いやァ?なんでもないさ。」

  「どれおれも世話しよう」と船長は如雨露をやんわりなまえから取り上げたのだ。花壇をこさえようと最初に思いついた言い出しっぺは、じょばじょばと水をかけていく。

「……シャンクス、やり過ぎ、根腐れしちゃう…かと。」
「おおすまん。」

  幾分か下にある彼女の顔を覗き込んで、船長は暢気を振りまいていた。いつか先生と生徒の立場が逆になっちまうかもな、と軽口を叩きながら。




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