逆トリ幼児化ver.でおおくりします。
台所を見通せる居間には、黒塗りの座卓が赤い髪と金色の瞳二人の少年に挟まれていた。赤い髪の方は木目に沿う様に頬杖をついてにこにことご機嫌で、台所でくるくると動く薄い背中を眺めているのだった。
「ぜってぇ美味いよな、なまえの手作りだもんな。」
もう一方の金色は横目でやに下がる赤いのを僅かに捉えただけでそれ以降の双眸は矢張り、ボウルをせこせこと掻き回すエプロン姿を追っていたのだった。
「こう、アレだ、女の子のお菓子作りって何でこうキュンとしちまうんだろうか。」
「…きさまが可愛げのあるものを強請るとは気色が悪い…。」
「作ってる姿が見たかったんだよ。おまえも同じ穴の狢だろ?」
「なまえが作るケーキを食べたいだけだ。性悪のぬしと同類にするな…不快だ。」
甘い香りが戦々恐々としているだろう座卓のもとにまで漂って来ると、二人はひと時無言になり砂糖よりも甘い筈であろうおんなを熱っぽく眺めたのだった。
色かたちはまるで違うのに、なまえを見つめる温度だけはそっくりでこちらだけを己だけを瞳に捉えればいいものをとこいねがうさまも、よく似ていたのだった。
「惚れたおんなが心を込めて一生懸命作ってくれるなんて…浪漫だろ?」
「…きさまがこの場に居なければ同意してやっても構わぬ。」
「折角の誕生日くらい仲良くやろうじゃねェか。」
「滑稽。心にも無い台詞をベラベラと垂れ流すとは。」
「はは、手厳しいな…」
「…」
デコレーションの用意を始めたのだろう。トントンと音立てて包丁を振るうなまえは男二人の、口汚い言い合いを耳にする事なく実に平穏にケーキ作りに所為を出しているのであった。
まさかあの子達の誕生日が一緒だったなんてと聞いた瞬間の驚きを思い出しながら口元を弛めていく。
『なまえ、なまえ。明日おれ誕生日なんだよ。ケーキ作って欲しいんだ。』
『え?…あしたっ?』
『鷹の目もな。』
『ほんとに…!?』
『あぁ。』
慌てて買い出しに行ったのもいい思い出だと半分に切ったイチゴに内緒話をする様に心の中で囁いては、美味しくなりますようにと生クリームを泡立てていくのだった。
「シャンクスはイチゴ、ミホークはチョコ、」
晴天が似合う大らかな笑顔のシャンクスとひどく大人びて微笑うミホークにささやかではあるけれど祝う気持ちを贈りたい。そうやってようよう冷めて来た二つ並んだスポンジの完成図をイメージしているのだった。
「なまえ。」
「…はあい?どうしたのミホーク。」
「随分と楽しそうだな。」
「ふふっ、ばれちゃった?」
性悪といるよりは愛くるしいなまえのもとが万倍いいと結論を出したのだろう。彼女の手元に視線を向けて喜色を口角に添えたミホークに包丁を止めてもうちょっと待ってってね。となまえまたこたえるのだった。
「ミホークもシャンクスも、いつも美味しいって言ってくれるから作るのすごく楽しくなっちゃってね。」
「正直に言っているだけだ。」
可愛らしい顔で手作りする姿も心掻き立てられる。福眼だと流れる様になまえに囁くと頬をほのかに染めた彼女はありがとう、どういたしましてとミホークの心臓を鷲掴みにする様な笑顔を見せたのであった。
「いつ攫ってくれようか…」
口の中で転がした言葉は今、なまえに教えてやる気は無い。その代わりとばかりに後ろの気配にのたりと眼光を投げるのであった。
「なまえ、なまえ、暇になっちまった。」
そう軽く問いかけながら、台所までやって来た赤い方になまえはくすりと再び微笑んではまな板の隣に置いたケーキ用にと買ったイチゴを手に取る。
「はいはい。…一個だけだね?」
「あーん。」
「ふふっ。…はいどうぞ。ミホークはこの次ね。」
ぱかっと開いた口に洗った一粒をそっと入れてやれば、イチゴを持っていた手首を捕まれてしまうのだった。なまえはおれだけを甘やかせばいいのによと悪戯っ子よろしく笑んでからその指先を己の舌の上に乗せてちゅ、と吸ってやるのはシャンクスだ。
なまえは零れてしまう程瞳を大きくさせてしまうのは道理だろう。
「うめェなァ…」
「しゃんくす、ってば、」
「けだものだな、」
「おまえも同んなじだろう?」
「そのけだものに精々喉笛を噛み千切られぬ様に、な、」
シャンクスが口付ける反対側の手を掬い取り、ミホークはその甲にかりりと犬歯を立てる。甘噛みとは違うそれに動揺するのはなまえばかりでそのまま剣呑さを隠そうともしないおとこ二人はまさしくけだものの眼光を宿していた。
「あー…。強請ンのはケーキだけにしてやってたっつーのに…」
「聞き分けが無いと呆れるか?なまえ…」
艶やかさを隠そうともしない少年達のどろりとした眼差しに身動き取れなくなったなまえはあくあくと唇を動かす事しか出来なかったという。
この後、ケーキが無事完成したのかは…定かでは無い。