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ハロウィンを全力で楽しむ三武海
konetaのこれがベースですよ。




 さて、この家には愉快で苛烈でトチ狂った三兄弟がいる。同じ家にて暮らしているものの似ても似つかぬ野郎どもは……なんてことはない、母親がみな違っているから故であった。
 そしてもうひとり。性別は違えど彼らと同じ屋根の下、共に暮らすきょうだいがいるのだが。今日は十月三十一日、騒ぎが起こらない筈がなかった。

「なまえ!なまえちゃん!こっちに来いよ…!」

 お祭りごとが大好きでもっぱら事件を起こすきっかけになるのが三男である。面倒くさ、いや騒々し、いや並べ立てても頑是無いか。
 兎角今回もこの三男が発端である。大層喜色を滲ませた声でなまえ、と妹を呼びつけ軽い足音が隣に来るまで鼻歌なんぞそらんじる程ご機嫌であった。

「兄さんどうしたの?」
「とびっきりのプレゼントさ。」

 なまえが呼び出されたのはお馴染みのリビング。きょうだいがいつも座るソファに今日は小奇麗な包みがちょこんと座っていた。オレンジ色の袋に黒のリボン、もこもこ膨れたおなかには一体なにが隠れているのやら。

「……もしかして今日ハロウィンだから?」
「ご明察。さァて可愛い妹チャン、」

 おれだけの可愛いかわいいなまえ!とよからぬ事を企んでいるのは目に見えている。勿論なまえとて長い付き合いなもので、この笑みのニュアンスを早々に悟る……悟ってしまうのだった。ちなみに三番目の兄に口で勝った試しは無い。

「この中身って……」
「開けてみりゃわかるさ。」

 開けたら完全に逃げ道が潰えてしまう気しかしない。見た目的にもこのタイミング的にも考えられる『中身』はただひとつ。無常にも真実はただひとつ。
 兄さん、こういうのは自分の恋人にお願いしたほうがいいんじゃないかなぁ。と苦笑いしてしまうのだった。

「言っとくがおれァ恋人なんていねェぞ。」
「そ、そうなの?もててるのに、」
「本命に振り向いてもらえなくって、な。それじゃあなまえ、着てみようか。」

 やっぱり!ぐいぐい袋を押し付けられ、おまけに緩い涙腺からじわっと涙が出てきてしまう。悲しいとかそういう訳ではないのだが強いて言うなれば追い詰められた草食動物の気分だった。なんたって肉食のフラミンゴが目の前いっぱいを埋め尽くしている。

「にいさん…っ、」
「たまらねェ、」

 いやこれは流石に近くないか。鼻と鼻がくっついてしまいそうだ、まるでお菓子も悪戯も欲しがるような強欲なさまはまるで……

「気色悪い。」
「嫌がる女に無理やりか……浅いな。」

 そしてムードはぶち壊される。冷ややかな空気に兄は後ろを振り向きなまえは顔を上げるのだった。いっそ禍々しいといえばいいのかきょうだいに発する雰囲気なのかと言えばいいのか、どちらにせよ底なしの迫力があった。「兄さん、」と救いを求める情けない声に動いたのは……次兄のほうであった。

「なまえ、駄鳥にいじめられたか。」
「おいおいテメェも鳥じゃねぇのか。」

 「黙れ話が進まねェ」とは眉間を押さえた長男である。おぶおぶと慌てる末の妹はようよう解放されてひと息つくのだった。

「酔狂。……またそのような安価な物を。」

 一瞥したのは例のプレゼントだ、そして次に視線を向けたのは件の三男。哀れみに満ちた眼差しに痛々しさを覚えたのは寧ろなまえのほうである。

「貴様やはりそういう趣向の持ち主だったか……。」

 無理やり着せて『ほぅらご覧、体は正直だなぁ?』とかそんな趣向を好むなんてなんという変態か。他所でするのならこの上なくどうでもいいし興味も無いが相手がなまえならば話は別だ。「汚らわしい。」と吐き捨てる次男にしかし「思春期の女子みてぇだな。」と三男は憎まれ口を返すのみである。

「可愛い可愛い妹に、可愛いお洋服を着てもらいたいだけだ。これのどこに問題がある?」
「「全部だ。」」
「おっと。」
「どうせ中身はきわどい丈のミニスカートとか猫耳とか、大方そのあたりだろう。」
「み、みにすかーと…っ」

 あまりスタイルに自信はない、なのにミニスカートなんて足をさらけ出す見せ付ける物を着るなんてそんなただの羞恥プレイじゃあないか、となまえは後ずさりするのであった。猫耳は、うむ、自分に自分が見るに耐えない。

「考えても見ろ。ふわふわのお耳、もこもこの尻尾、語尾は『にゃあ』。なまえがそれで、おかしてくれなきゃイタズラするにゃん。とか、言うんだぞ……」
「台詞が気色悪いのはワザとか?ええフラミンゴ野郎、」

 青筋立てる長男の背中にそっと隠れるなまえは三男が本気なのか冗談なのか考えあぐねていた。今この時でも不適な笑みは顔面に張り付いたままフフフフ!とのたまっているのだから、さもありなん。

「ミニスカートはなまえには合わねェ。性格を考えろトリアタマ、こいつは大人しいし派手好きでもねェ……」
「にいさん……」
「ロングの方がいい。」
「……にいさん?」

 えっ。と顔を上げるのはなまえばかりである。如何いう事か、ロングってロングスカートの意味なのか、いいや真面目で頼りになる長男が。まさかそんな。
 ぱちくり瞬きを繰り返す妹だが長男は尚も三男に向かって言い放っていた。「なまえとの相性ってもんを考えろ。」と腕を組む。

「肌は極力晒さない。品と知性のある女ってもんが最高なんだろうが。」
「おれァ積極的に……そうだなァ恥ずかしいのを我慢してアピールを頑張る女が好きだ。」

 何を言い合っているのか、この二人は。おろおろ交互の顔を見るなまえの感情は複雑だ。「おれが今から見繕ってくる」と言い出してからは更に汗が噴出してきそうだった。

「……何が欲しいか言え。このフラミンゴのを着るのは恥ずかしいんだろう?」
「は、はずかしい……けど、」
「恥ずかしい、か。そうか恥ずかしいのか。」
「…?うん。えっ、でも、着るの前提になってる…?」

 ……着ないのか?
 完全に着るのが前提だった、らしい。驚愕の顔つきに寧ろ驚くのはなまえである。こういうイベント事は長男次男ともにどちらかというと好まないタイプだったと思っていたのに。

「医者の格好なんてどうだ。」
「オイシャサン?」
「品があって知性も感じられる。白衣と慎ましやかなロングスカート。まァ役になりきって

 目を白黒させるなまえは長男からも後ずさり、静かな次男のほうへとそろりそろりと逃げていくのだ。安全地帯に行けばこの静かな争いごとから逃げられる気がした。

「おれはなまえが可愛らしくなるなら何でもいい。」

 気がした、だけだった。
 ミホーク兄さんは輪をかけてイベント事に興味無かったはずなのに、とついにその場で固まるなまえに小首を傾げる次男は「強いて言うならば色は黒がいい」とぼそっと呟いていた。淡い色を着ているイメージが強いこの穏やかな気質の妹が……挑発的な、大人びた黒をまとったら。そのギャップは計り知れない、凄まじい威力だろう、例えば勢いあまって押し倒してもおかしくないくらい。

「鳥野郎気が合うじゃねェか、フフフ!この猫の毛色はブラックだぜ?」
「貴様が用意したものを着せるわけないだろう。」

 当然だ、自分以外の男が用意したものをなまえが纏うなんて考えたくも無い!金色の瞳でぎろりとねめつけてから小さな妹の頭をぽふぽふ叩くと「安心しろ」と続ける。本当に安心できるかどうかは、別として。

「部屋に来い。用意しているものがある。」
「……それって…まさか、」
「おいおい、気色悪いだかなんだか言ってるが、」

 考えてる事は三人とも同じかよ、と思考は綺麗にハモるのだった。
 そして哀れな妹は追い詰められていくのだ。

「どれがいい?」
「秋の夜長とも言う。ゆっくり決めろ。」
「どれを着ても可愛がってやろうじゃあないか。」

 今夜はハロウィーン、悪魔が囁く暗がりにジャック・オー・ランタンが笑っている。





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