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上司と部下の話
※not長編お嬢さん
※×より+なお話





白ひげは女を船には乗せない、正確には、荒事に繰り出そうとする女は乗せない。
しかして!
どうしてもかの偉大な海賊の下で、白くじらの背中で海賊としての人生を歩みたかった。
なので、自分は『息子』になった。
まぁ、早い話が男装して性別を偽っただけなのだが。敏いひと……恐らく親父殿や一番隊の隊長さんは気付いているのだろう、しかし、今のところ何事も無くモビーのデッキを歩けていた。
気付けば隊長の補佐役(といっても隊長が寝てばかりいるので目覚まし時計役兼書類整理のお目付役に近い)まで漕ぎ着けたので、うむ、人生なるようになる。

「ちょっと出掛けますねー!」
「おーう!おれも……」
「エース隊長はハンコ全部押してからじゃないと部屋から出られませーん。」
「うへぇ。」
「お土産買って来ますんで!」

順風満帆だったのに、今日はどうやら人生のターニングポイントだった、らしい。







「こいつ女だ!!」
「こいつァいい……へへ、」
「離せバカ!!」

あぁもうサイアク!と声を荒げてもポークビッツみたいな体格に押し潰されたままでは身動き取れなかった。数はニ人、馬乗りになる男と腕を押さえつける男。
アレだ、要はアレ。白ひげのクルーにちょっかい掛けて粋がりたい、後先考えない連中に自分は見事絡まれた。袋小路に誘導されてこのザマ。
粘着質のイジメをしたいのか丸裸にして一枚パシャリ、の予定だったらしいが憂えばいいか喜べばいいか……女の体だと速攻で、暴露た。
釦が買ったばかりのお土産と一緒に地面へと飛んで行った。

「むー!!ぐぅっ!!」

口を押さえられて大声も出せない。玉を蹴り上げてやろうかチビデブ野郎め!なんて文句の一つも吐き捨ててやれなくて、眉間に皺をググッと寄せるのだ。
これでも海賊の端くれ、悲鳴を上げたり泣いたりなんてしない。が、えもいえぬ不快感は腹の底からせり上がる。
こいつの顔に吐瀉してやろうか、とも思ったが生憎大分前に食事を取ったもので胃の中は空っぽだ。

(折角気分良かったのに。)
(こっそりペディキュアするくらい楽しみだったのに。)
(親父殿と、それからエース隊長にお土産買ったのに。)

ぎっ、とポークビッツ野郎を見据えて右脚に力を込める。大丈夫だ。女だからって油断してるド三流には負けない。一発お見舞いしてやるのは股間だ、急所を的確に狙うこれ即ち常套手段なり。
目をそらす選択肢は無い、生憎わたしは、負けん気と根性が取り柄なんだ。

「二対一、なんて随分じゃねェか。」

睨み据える男より高い場所に、見慣れた色が翻っていた。
あの色は。


「動くなよっ!」
「はい隊長!!」

エース隊長!!
ポークビッツが慌てて手を離したから声が出せる。次の瞬間には真横に吹っ飛ぶポークビッツ。自分が手を出す暇もなかったが折角なら股間に一撃お見舞いしてやれば良かった!

「これだけ自由なら。……充分…っ!」

お次は残りのこいつ。
先程まで貯めていた力を腹筋の方へと変える。強張らせて、上半身に『起き上がれ』とオーダーをくだす。お触りしたいならくれてやる!石頭だから少々額が割れるかもしれないが、出血大サービスだ受け取ってくれ。

「ギャッ、」
「そら、もういっちょくれてやるぜ?」

自分の頭痛にのたうちまわる男の真上に見えるのは角度を確定した黒靴の踵。『屋根の上から降ってきた』エース隊長のかかと落としは額と真反対の後頭部へーーーズドン。

「うちのに手ェ出すんじゃねェよ。」

しなやかな黒豹のような人だ、彼は。
炎を燈すまでもない、エース隊長は口角を上げてテンガロンハットを被り直すのだった。
ニィ、と笑うその姿は海上でよく見た光景だ。
自分でも分かる、頬がだらしなく緩んでいく。うちの隊長はかっこいい、あぁ、親父殿とは違うベクトルの、かっこよさ。

「助かりました隊長、上手いこと袋小路に誘い込まれちゃいました。」
「ホント珍しいなおまえが捕まっち、まう、なん……んん?」
「まったく面目無い……そうそうこれ、お土産買ったんですが、あちゃー、やっぱ潰れてるか、」
「……な、」
「胡桃のカンパーニュ、チーズと挟んでおツマミにしようと思ったんですが……。」
「いや、待て、ちょっと待て、おいおまえそれどういう事だ。」
「何が……あー…あはは、」

エース隊長が凝視しているのは哀れちんくしゃのカンパーニュでは無く、自分の……主に胸部であった。
男と違ってそれなりに膨らんでいるので普段は厚手の服で誤魔化したりサラシを用いたりしていたが、うむ、今はそのどちらも無い。ブラジャー、一丁だ。

「すいません、お見苦しいものを」

見せまして。と言う前に「ばかか!」と声を上乗せされた。おぶおぶ手をばたつかせて、周囲を見回す隊長が発見したのはわたしが着ていた服だ。……あんなトコにあったのか。

「整理、するぞ、女なのかっ?」
「一応。」
「なんで冷静なんだ、おまえ仮にも襲われてた側だろ?」
「不覚にも。でも隊長来てくれましたし、隊長怒ってくれてるから自分、寧ろ逆に冷静になれたというか。」
「……こんの、ばかやろう!」
「はい。すいません。」
「タフだなおまえ。」
「マルコ隊長から唯一褒められたのがこの根性でしたから。」
「あァそりゃとんでもないお墨付きだな……」

その他になんで男装なんてしてるんだ、とか危ない真似するんじゃねぇよ、だとか。末っ子隊長がまるで兄のように振舞っていた。
「隊長がお兄ちゃんになったみたいですね」「まさか弟が妹だなんて思っちゃなかったけどな!」とまぁ、軽口暫く繰り返してから自分と隊長と潰れカンパーニュは寝ぐらの船に戻るのだ。

「面倒見てやるよ。おれの部下……それも特大の秘密付きだからな。」
「頼りになる隊長が上司なんて自分は幸せ者ですよ。」








「何でモビーに乗ったか聞いたこと無かったな。男装までして。」
「そりゃあ単純な理由ですよ、親父殿のお人柄に惚れたんです。隊長と一緒。」
「一緒が……。」
「親父殿のかっこいいトコロ百個、速攻で言えます。」
「なら俺は百五十はカタいな。」
「さっきのは言い間違いです、二百はカタいです。」
「ならおれはだな、」

仲良いねい、あいつら。
グラララ……何で盛り上がってんだか…!




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