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赤戌さん家と立海テニス部
テニヌ混合と現パロごっちゃにしてるだいぶニッチ仕様




  うららかな陽射し、土曜日の午後三時。今日の部活はこれにておしまい。切り上げるのが早いのはただ単に開始時間が早朝だったからに他ならないのである。

「ふくぶちょー、なんすかその荷物。」
「叔父が最近こちらに越して来たんだ。……家の使いで俺がこれを届ける事になった。」

  お前には関わりない事だ、と一蹴されるかと思いきや。意外にもすんなり風呂敷包みの正体は白日の下に晒された。まあ、要は隠してもこの後輩がなぜなぜなんで、と引っ付いてくるから早々にバラしてしまうというのが正直なところである。
  家より学校の方が距離が近い、最近顔を見せてないんだから弦一郎お前行って来い、概ねこういう経緯であった。

「あぁ、分かった。赤戌のおじさんだね。」
「部長知ってんすか?」
「うん。小さい頃ちょくちょくあった事あるんだ。」
「『あかいぬ』か、なんか可愛い名前っすね。」
「……。」
「…ふふ、そうだな。名前は、可愛いよ。」
「……へぇっ?」

  なんなんすかその含み笑い!とドングリ眼の後輩に部長は、そうテニス部の部長殿は麗しの菫そっくりの微笑みをたたえるのであった。
  だがしかし後輩の質問には返す事なく。曰くサプライズがあった方が世の中たのしいよ、であるらしい。

「けどまた急だな、引っ越しだなんて。」
「ご結婚されたんだ。」
「へえ…。」
「精市も来るか?」
「いいのかい?」
「散々世話になったろう。」
「俺も!俺も付いて行きたいっす!」

  つまりそういう事になった。
  後輩の台詞に顔を顰めた、少々老け、ごほんがほん、この場の誰よりも大人びた副部長殿であったが……隣でクスリと笑む部長殿に宥めすかされ結局三人で『赤戌さん家』に向かうのであった。





「……詐欺だ!」
「喧しいぞ赤也!」
「二人ともうるさい。」
「だってファンシーじゃないっす、こう赤レンガのお家でふわふわのお菓子とミルクティーを食べさしてくれるご家庭だと思ったんすもん!あかいぬっててっきりトイプードルとかそんなイメージだったし!」
「弦一郎の親戚、の時点で気付こうか赤也。」
「失礼極まりないぞ全く……。」

  純和風、黒檀の造り。ここは『おそらくこの家の娘さん』に案内された床の間。
  家の主が居ないのをいい事にああだ、こうだ、と煩い後輩にキャップを抜いだ副部長はほとほと辟易してしまうのだった。

「よう来たな。」

  ひえ、声ちょう低い!とは後輩の心中での感想である。襖を開きながら登場したのはそれはもう、嘗て出会った人物の誰よりも大きな大きな男であった。やく……。いや何も言うまいて。兎に角もこの副部長を十倍以上更に渋くして厳つくして年齢を重ねた大男はデンと、そりゃあもうデデンと効果音が付く程に堂々と上座へと座っていたのであった。
  この中で一番の最年少は……汗を垂らして畳の目を数えるばかり。あぁ、付いて来るなんて言うんじゃなかった一時間前の自分を殴り飛ばしてやりたい。

「お久しぶりです、弦一郎に誘われてお邪魔してしまいました。」
「精市か。でこうなったな。」
「で、でこ?」
「大きくなった、という意味じゃ。」
「方言っすか。」
「出身が広島じゃけぇな、聞き取りづらいか。」
「いえ!新鮮なミミザワリで、えーそのー…」
「赤也テンパり過ぎ。」

  分かった、この人は闘犬だとついに確信に至る後輩であった。荒ぶる土佐犬、広島だけど。

「今更ですが、押し掛けてしまい申し訳ありません。用を済ませたらすぐおいとまする予定だったのですが……」
「それじゃ来た意味がなかろうが。……うちのが茶菓子を持って来る言うちょったけぇ、それ食うてから帰れ。」

  うちの、とはさっきの娘さんだろうか。と漸く顔を上げた後輩は襖に小さな女性が歩いている影を見つけたのだった。「入ってもいいですか?」との声を聞いてああやっぱりさっきの案内してくれた優しそうな人だと合点する。
  随分この『赤戌さん』とは似ていない娘さんだ、母親に似たんだろうか。けどそういえばこの人標準語だったな、そういえば……ここに来た目的って確か引っ越し祝いともう一つなんだったかな……。

「あぁ構わん。」
「お邪魔しますね。」

  漆塗りのお盆にはきんつばがよっつ、湯のみもよっつ。ちょこちょこと動く彼女にぎこちなくお辞儀をして……この後輩は雰囲気の違いにまじまじと見つめてしまうのだった。
  この人ならトイプードルとまだ言える、いや豆柴、の方が合っているかな。ともあれ小型犬のカテゴリーに含まれるだろう、うむむ。少年の頭は思考がぐるんと渦巻いていた。

「赤也!」
「ハイスイマセン!!」
「あまり女性をじろじろ見ない。」

  そら恐ろしい先輩に窘められて思わず総毛立ってしまう。相変わらず『赤戌さん』は表情ひとつ変えないし、目の前の娘さんはきょとんとしてしまっているし。誰かたすけてください。

「いや、その、お母さん似なのかなって、ハハ、見つめちゃいましたスイマセン……」
「えっ?」
「だから、そのお父さんと雰囲気が違うから……」
「おとうさん?」
「だから赤戌さんの……」

  しどろもどろになって、なんだか言い訳じゃあないのに言い訳のニュアンスを含んだ台詞をボロンボロンと零してしまうのだった。有り体に言えば空気が妙なのだ勘弁してほしい、であった。

「……。」
「……。」
「ハァ……。」
「赤也、お前俺が最初に言った事を忘れたのか。」
「何なんすか?えっ、俺マズイ事言っちゃったんすか?」
「あはは、そのね……。」
「なまえ、いい。わしが言う。」

  何を?とこの地雷原でタップダンスをしまくっているのに全くもって気がついていないのは切原赤也少年である。かの有名校立海大付属、テニス部のホープでも踏み抜く時は盛大に踏み抜いてしまうのだろうか。いや、流石にこれは間違える人間の方が多いので……彼の目が別段節穴という訳ではない、とフォローする。

「これはわしの、妻の、なまえじゃ。」

  単語ひとつずつを区切る様に、特に『妻』という一言にアクセントを付けた一文であった。

「マジかよ!!」
「失礼だぞ赤也さっきから!」
「だからうるさいよ二人とも。」

  わあわあと大騒ぎする約二名に、微苦笑する赤戌さん家の『奥さん』は眉間に皺を寄せた旦那様にこっそりと「私はなんにも気にしてませんよー。」と呟くのであった。奥さんだけが知っているのだ、この仏頂面と仲良しの旦那様は意外と気にするタイプだと。
  因みに旦那様は警察庁に奉職してはや数十年、奥様は去年大学を卒業したばかりである。
  つまりはそういう事である。所謂年の差夫婦、赤也少年が間違えるのも大いにおかしくは無いのである。




「警察官!」

  警察官がろりこん!と言って、盛大に部長副部長からお叱りをちょうだいするのは……この赤戌さん家からおいとまして、角を二回程曲がった後であった。


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