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赤髪と麦わらに挟まれた

『もし、あの時フーシャ村に居たら。』


「なー、連れてってくれよー!」

元気いっぱいの声が今日もマキノの店に響き渡っている。バーカウンターの横に居たなまえは飽きないなぁ、ともはや関心の域でその少年の熱意を見守っていた。

「なーってば!」
「へいへい、」

元気一杯なのは幼い少年。名前は、ルフィ。シャンクスに認めさせる為に自分の顔にナイフを突き立てた剛毅?な少年である。あの時はなまえも絶句してしまったが…あのシャンクスが着いているのだから、この先この少年に何が起きてもきっと大丈夫だろう。

「ほーら、ジュースだぞー。」
「わーい!…、…はっ!?卑怯だぞ!」
「だっはっはっはっ!!あっさりつられやがって!」
「こんにゃろォー!シャンクスこんにゃろー!!」

ヤベェハラ痛ェ!と大受けしているシャンクスをなまえはじぃと見つめた。
…うん。大丈夫だと思う、きっと。うん。

「なまえだって船に乗ってるんだぞ!えこひいきだ!」

突然話を振られてんっ?となまえは目を見開く。ててて、と近付いた少年はそのままタックルする様に抱き着いて、むぎゅうと薄っぺらな彼女の腹に顔を押さえ付けていた。なまえは苦笑しながらたたらを踏んでその黒髪を無てでやる。

「ルフィったら。」

しょうがないなぁと頭を撫でるとにしし、と少年は嬉しそうに笑った。この少年はシャンクスも大好きだがなまえもまた大好きなのだ。だかしかしそれも僅かな時間で、再びはっ!?として目を丸めた表情になる。

「こんにゃろー!なまえにもやられるとこだった!」

そうだ、乗船云々の話だったなぁとなまえはルフィの目線までしゃがみその先を続ける様に促し、そっと見つめてみた。
…絆創膏は剥がれる事なくちゃんと着いている。

「なまえは女だし、すぐ泣いちゃうのに、何でシャンクスの船に乗れるんだ?」

本当に疑問だ、と半分ぷりぷりした表情で首を傾げた少年になまえはついつい再び苦笑してしまう。成る程、確かに。

「話せば長ーくなっちゃうの。」
「えー、」

釈然としないルフィにどう説明しようと悩むなまえに後ろからのしりとシャンクスが覆い被さって来た。なまえの頭に己の顎を乗せるとぐりぐりと力を込めて、序でとばかりに筋肉質の逞しい両腕を柳腰に回す。

「簡単じゃねェか。いいかルフィ、よく聞け。そしてもうタイムリミットだなまえから離れろ今すぐ。…なまえが船に乗ってる理由は、だ。よーく聞けよ?なまえがおれの女だからだ。だからなまえはおれの傍にいるのが仕事で、絶対離れちゃいけねェンだよ。」
「しゃ、しゃんくす…」
「本当のことだろ?なまえ。」
「…ふーん。」
「反応薄ィな。珍しい。」

何時もなら喰ってかかる筈の少年である。予想ではなんだそりゃ!と訳がわからない顔をするか、何かしろぶっ飛んだ答えをくれると思っていたのだが。

「じゃあますますダメだ!」
「ルフィ?」

大きな声できっぱりと言い切ったルフィはなまえから離れる事なく精一杯の真剣な顔をしていた。シャンクスになまえ、マキノも、序でに言うなら周りにいた赤髪海賊団の面子すらそれに驚いて固唾を飲んだ。
マキノの店にしぃんと静けさが訪れる。

「なまえはおれのおんなになるんだ!」
「え、そうなるの!?」

なまえにとってこのパターンは予想外である。「そうだ!」と断言したルフィは尚も「なまえに味噌汁作って貰うんだ!」と意味を知っているのかいないのか判断し辛い言葉を言ってのけた。

「…意味わかってんのかルフィ?」
「おう!」
「ダメに決まってるだろ。」
「ダメじゃねェ!」
「なまえはおれんだ。」
「おれがうばうんだ!海賊はほれたおんなは自分の力でかっさらうんだ!」
「おい、誰だルフィにんなの教えやがったの。」
「「ヤソップ。」」
「ヨッシャ後で覚えてやがれ。」
「ゴメンて!」

何だろ、このグダグダ。眉を下げた困り顔のなまえには前方にルフィ、後方にシャンクスがそれぞれいる。どちらも譲らず決して彼女から離れ様とはしない。
…サンドイッチじゃないんだから。とマキノが微笑ましげに、それでも苦笑しながら洩らす。

「…モテる女は辛いな。くくっ、」
「ベンさん、たすけてください…」
「馬に蹴られるのは御免蒙るな。」
「あはは、」
「なんだなまえ、ベンにわざわざ言わんでもおれがいるだろ?」

ぎゅうっと腕に力を更に込めるシャンクスの手首に手を添えたなまえは小さな溜息を聞こえない様に吐いた。嫌では無いがこの状況は少々…いやかなり恥ずかしい。

「第一なまえはルフィに甘いんだよ。ハッキリと気然とした態度で答えてやらんと。ルフィだけじゃねェぞ?要らん虫がまとわりつくンだ。」

まぁおれが全部排除するけどなァ。と物騒な台詞を吐く男にルフィがきり、と視線を上げた。

「おれは虫じゃねぇ!」
「ばっか、ものの例えって言うんだよ。」
「…うーん。」

煮え切らないなまえになあ、どうするんだ?とシャンクスは言い募る。力を軽く込めれば柔らかななまえの感触がわかり心地よかった。

「あ、そっか。」
「んー?」
「…ルフィとシャンクスがそっくりだから、だったのね。」
「おれとシャンクス似てるのか?」
「うん。…賑やかなのが好きなとことか、優しいとことか。」

なまえは二人だけに聞こえる様に囁いた。何とも内緒話の様でくすりと一度微笑む。

「大好きなひととルフィがそっくりだから、可愛いわがままをつい許しちゃうの。…ね、シャンクス?」

たおやかな微笑みに、そのふぅわりとした言葉。シャンクスは身悶えて息を詰まらせてしまった。なんだ、おれの恋人はなんでこんなに可愛い事を言ってくれるんだ。寧ろおれを盛らせたいのかそうか。そんなことが一瞬の内に頭の中を駆け回って暴れ出す。

「…なまえ…っ。」
「えー!?おれかわいいよりかっこいいの方がいいぞ!」
「…ルフィ空気読め。」
「空気は読めねぇ!吸うもんだろ!」

この少年は何時だって一直線だ。

「収集付かなくなったぞ、いよいよ。ベン出番だ。」

他人事宜しくルウが肉をむしゃむしゃ咀嚼したのを見て、赤髪海賊団の副船長が重たい腰を上げるのは…後もう少しである。



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