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ハートのクルーの災難
ネタ提供ありがとうございます。
注釈:シャチさんはいじられ係



パセリって食べ物じゃねぇよな、飾りだよな。とアルコールでフワフワした思考のまま皿に残った最後のツマミを口に入れる。
気分は上々、航海も順調、全く素晴らしい。

「あー、それおれが食べよーとしたのにー!シャチのケチ!」
「こーゆーのは早い者勝ち弱肉強食だ…!残念だったな、ベポ…」

ふふん、と得意げに鼻を鳴らしたハートの海賊団のクルーはご機嫌にグラスを傾ける。海の底で催される宴も、そろそろお開きだ。椅子をぎしりと鳴らして行儀悪くテーブルに乗り掛かりシャチは周囲を見回した。

「しゃちさん、しゃちさんっ。」

これはそろそろ片付けしねぇとコックに怒られるなーと立ち上がろうとした時、シャチに柔らかい声が掛けられた。この船に居る女性は一人しか居ない為、なんだなんだ?と気安く振り返る。

「どした?なまえちゃん。」

歳が近く話す機会も他のクルーより多い。そんな一番小さな新入り。…といっては語弊があるか。それなりに長い付き合いになったが彼女よりも後に入団した奴がいないので、うむ新入り、としておこう。閑話休題。
彼女は普段と変わらず…まぁ多少なりとも酒が入っているのだろうが。そんななまえがてこてことシャチの傍へと訪れた。

「えへへ、」
「なんかご機嫌だなぁ。そーいやキャプテンは?」
「ペンギンさんとお話し中なの。」

なまえにベッタリの我らが尊敬するキャプテンは確かにペンギンと何か二、三声交わしていた。はて、今後の進路についてだろうか。

「私、シャチさんにお礼が言いたくて来ちゃいました。」
「え、おれ何かした?」
「はい。シャチさんは気配りがお上手で…私のお仕事手伝ってくださって、本当に助かっちゃってます。…今日こそは一言、とおもいまして。ありがとうございます。」
「いいって!そんなん言われたら照れちまう!それにおれらもなまえちゃんには色々お世話になってるし、な…っ!?ヒッ?!」

にこにことして平和そうに笑っているなまえを見て、シャチもまた笑み崩れたがその後ろの形相が思わず目に入って、笑みのまま固まってしまった。おまけに潰されたヒキガエルみたいな声も出る。

(キャプテン、メッチャ、コエー!)

なまえと話しているだけであるのにその隈で縁取られた瞳は射殺さんばかりの眼差しでもってシャチを見つめていた。
知っている、知っていますとも。なまえちゃんはキャプテンの一番大事なこで泣いてる顔が可愛いと、ものすごい自慢する愛しの彼女だってことぐらい。シャチは声にならない悲鳴を上げる。

「シャチさん?」
「ナンデモナイヨー。」

グサグサ刺さる視線を全身に浴びてシャチはそろそろ、キャプテンとこに戻ろうかとなまえに声を掛けようとする。
おれの命の為にどうかなまえよ、恋人の元へと帰っておくれ。いやマジお願いしますから。

「じゃあ、ローのとこに帰りますね。では最後に。」
「さいご?」

シャチがおうむ返しをしたその瞬間にふに、と柔らかくて温かで、甘い香りがするものが頬に当たっていた。

「ふふっ、お礼です、シャチさん。本当にいつもありがとうございます。」

すぐ近くで聞こえたなまえの甘やかな声にシャチはわぁ、女の子っていい香りなんだなーと一瞬だけときめいた。そう、一瞬だけ。
そしてその一瞬が過ぎ去ると目に入ってくる男の形相に文字通りビキリ、と硬直した。
あちゃー、とした顔のペンギンと目線が合う。

「おれいのちゅーです。」

えへへへ、と先程よりも緩んだ顔とゆらゆらしている声音にシャチはまさか、と思いながらなまえが座っていた席を確認した。空っぽのグラスがひい、ふうみ…結構な数であった。

(実は結構酔ってらっしゃるー!なまえちゃん酔っ払ってるー!)

奥ゆかしい、というか引っ込み思案な彼女が素面でそんなことまずしない。したがって考えられるのはひとつだけであった。
なまえちゃんは、酔っ払うとキス魔に、なる。

「あははは…まじかーそうかー…」

シャチのシナプスは目まぐるしく働いて、それから鋭さを増した突き刺さる純度の高い殺気に震え上がる。
こんな芸当出来るのはこの船では一人だけ。

(見てらっしゃるー、キャプテンガン見してらっしゃるー!)

ハートの海賊団、キャプテンと呼ぶに相応しい殺意がシャチをその場に縫い付けてしまった。海王類に睨まれる方がまだマシ…、それぐらいの強い強い視線。いよいよ、血の気が引いた。

「おい…、」

いっそ怒髪天を衝いてくれればよかったのに。静か過ぎて不自然な声音の我らがキャプテンは無表情のまま一歩を踏み出した。

(あ、これおれもうダメだ。みんな…おれ、海の藻屑になるわ。)

化けて出たらゴメン。とシャチはそっと瞳を閉じた。
何故逃げないか…逃げた方が後が怖いから。である。

「…なまえ…。」
「ひっ!…え?」

シャチ…、とおどろおどろしい声がするはずと踏んでいたのだか予想外にも声は尚もふわふわと笑う彼女を呼んだものだった。

「ロー?」
「なまえ、」
「そうだ。ふふっ、ね、ロー…ローにもちゅー、してもいい?」
「…あぁ、サイコーのヤツくれよ…」
「はあい、」

普段では絶対に言わない台詞であるのに彼女はやすやすと言ってのけてしまうと、軽い足どりで男の傍まで行ってしまう。男は彼女がやり易い様に少ししゃがんでやると、嬉しげになまえは微笑み、そして瞳を閉じてその男の唇に自分の小さなあか色を柔く押し付けた。

「んっ…、」

小鳥がする様な可愛いキス。しかしこのキャプテンには効果は絶大である。鼻にかかった甘い、吐息混じりの声を聞くや否や男は彼女の細い体を抱き上げてしまった。

「もっとすげェの教えてやるよ…」

消毒するんだったらこんなんじゃ駄目だ。とシャチを雑菌扱いし男は一度離れた唇を再び合わせた。多いつくす様にがぷりと熟れたあか色を味わう男に、見ていたシャチの方が息を飲む。

「んぅ、ふぁあ、あ…んっく、くぅ、ん…っ。」
「なまえ…ン、…っク、」

くちゅ、くちゅと津液が交わり合う音がして二人の唇をあかが繋いでいた。じゅる、と男が彼女を啜りなまえは蕩けた瞳で男を見つめている。

「ろー、もっと…」
「今日はおねだりが上手いな…」

酔っ払った所為でなまえの羞恥心は投げ飛ばされている。男はにや、と口角を上げると願い通りにその可愛い唇に何度もかぶりついた。口内を貪り、ぎこちなく動く舌を何度もしごく。

「ん、んっ…っ!ふ、は…っ」
「なまえ、」

堪えが効かなくなったのだろう。男はその手をなまえの服の隙間から差し込んでやわやわと上下に動かしていく。

「行くぞ…?」
「…ぅん…。」

男の腕の中でしなだれる様に大人しく収まっていたなまえがか細くなくと男は満足そうにまた口角を上げた。

「片付けしとけよ。」
「あ、アイアイ、キャプテン…」

その場の甘ったるい空気に居た堪れないクルーが呟いた。散々見せ付ける様に好き勝手にやらかしてくれた我らがキャプテンは人一人抱えているとは感じられない足どりでドアへと向かって、開ける。

「あぁ、シャチ…」

最後に、と言う様にクルリと振り向いた男は一言『ROOM』と囁いたのであった。

「あーあ…」

名前を呼ばれたクルーはその後ジタバタと動く己の体を眼下に捉え、首だけのまま仲良くパセリと並んでいたという。


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