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戯れたい赤髪
「だぁれだ…?」
「…わ、」

船長室でベックマンに借りた英文の本をとつとつと読んでいると、その視界が真っ暗になった。ゴツゴツした男らしい大きな手は優しい温もりで、なまえの目元をふんわりと覆っている。こんなことを仕出かすのはこの船で、なまえは一人しか知らなかった。答えなど明白…というより既に声で誰だかわかってしまう。

「ふふ、はいはい。…最近素敵なおじさまに戻っちゃった、元子どものシャンクス、で合ってますか?」
「当たりだ。正解したなまえにご褒美やるよ。」
「なあに?」

掌を退けられたら、そこにあるのは鮮やかな赤色と悪戯っ子の様な微笑みであった。予想通りの姿になまえもまた笑み崩れる。無邪気な遊びにくすくすと笑っていればたちどころに後ろから抱き込まれ、太い片腕が腹に回された。

「なまえ?」

背中にシャンクスの厚い硬い胸が当たる。あったかいなぁ、と彼女が心地よく感じていれば男は熱っぽく名前を呼んできた。

「はあい。」

呼ばれた方へとゆっくりと振り返ればなまえにキスの嵐が降り出し、瞼へ頬へ、唇へと蕩ける様な温もりを与えられた。

「ん、ふっ…、ふあ…っしゃん、くす。」
「可愛いな、なまえ。」

すり、と体を密着させてくるシャンクスの鼓動の音が聞こえた。早くて熱い、おとこの音だ。

「も、ぅ…っ、待って、まだお昼だからっ。」

怪しくなる手つきになまえは慌てて静止を掛ける。シャンクスは子どもの様に唇を突き出して「ちぇー…いーじゃねェか。」と不貞腐れるがなまえにとっては死活問題だ。その、『営み』の、体力的な、面で。

「本ばっかり読んでないでおれに構ってくれ、なまえ。しかもそれベンのだろ。」

ヤキモチ妬いちまう、と戯けて言ってる様でも瞳の奥は真っ直ぐになまえを捉えていた。流石というべきか、本をあっさりと彼女から取り上げてしまってシャンクスは己の膝に『つれない』恋人を乗せてしまう。

「…なぁ…焦ってこっちの事を、そんなちっちぇえ頭に詰め込まなくてもいいンだ。なまえが一生懸命なのはおれがよく知ってる。」
「…そんな風に見えちゃった?」
「…やーれやれ。無自覚だったのか、おれの健気な恋人は。…そうだな、夜遅くまで灯りが点いてたのは知ってる。後はこれだ。」

腹に回した腕をなまえから離す気はないらしく、シャンクスは唇で恋人の目の下に触れた。薄っすらと出来た隈は彼女の白い肌に似合わない。
なまえは懸命に…それこそ根を詰めて『こちらの世界のこと』事を覚えようとしている。それは彼女の美点でもあるが男は今回ばかりは不満であった。

「あんまり、苦じゃないのよ?」
「それで体調崩したら元も子も無ぇだろう。言っとくがなまえが熱でも出しちまったら速攻で進路変えるぞ。」

勿論、面舵を女の医者の居る島に、だ。幾ら信頼している船医といえども他の男に恋人の肌をむざむざ晒す気は毛頭無い。遠慮がちな彼女は困るだろうとわかり切っていながらもシャンクスはその意思を変えるつもりは無かった。

「…私、シャンクスが大好きなこの世界のこと、この海のこと沢山知りたいの。わりとね、寝る時間も勿体無いくらい楽しんでる時もあるの…好きな人の好きなもの、私ももっと知ってうんと好きになりたいって思うから。」
「お勉強が?」
「うん。…でも確かに、ちょっと頑張り過ぎかなって思ってた節もあるかも…心配させてごめなさい。気遣ってくれてありがとうシャンクス。」

なまえにふわりと笑まれてしまえばシャンクスは呼吸するのも忘れる程心を奪われ、足元が震える錯覚に襲われる。自然と腕に力が入ってしまうのは当然であった。

「…きゃっ!?く、苦し、いたたたっ、シャンクス?しゃーんーくーすー…離してぇー…!」
「くそかわいい…!」
「うで、きついの、弛めて…っ」
「むり。」
「ぇ、」

だ、誰かー…助けてーっと切羽詰まったなまえの声は外に届いた様で「如何した?痴話喧嘩か?」と冷静な副船長の返事がドア越しに聞こえ、なまえは助けを求めてしまう。ガチャリと副船長がドアを開けば恋人を抱え、背中を丸め込んだ船長の姿があった。赤髪を揺らし、後ろからなまえを羽交い締めにしてぷるぷると何かを堪えている。

「シャンクスに締められてて、くっ、苦しい、です…。」
「…この人は全く…オイ、戻って来いお頭。」

遠慮無しにゴチンと副船長にしばかれたシャンクスであったが大したダメージも無い様子だ。しかしながら漸く落ち着いたのかなまえを締めていた腕の力を抜く。

「なんだってこんな騒動になったのかね、お嬢さん。」
「ベンさんに本を借りて、勉強してたらシャンクスが、」
「構って欲しかったンだよ、なまえに。」
「シャンクス、あのね、」

男を見上げたなまえは胸を張ってシャンクスの隣にいたいから、世間知らずは嫌なの。と眉を下げてポツリと呟いて、その大きなシャツを軽く握り締めるのだった。
男はあー…一生懸命で可愛いなァと心臓が締め付けられる。

「おお。この海のこといっぱい覚えてやってくれ、大歓迎だ。」

だがなァと赤髪を再び揺らしてなまえを抱え直す。

「それはおれが教えてやるからな、なまえ。手取り足取り、その他諸々も、な。だからこんな紙切ればっかりと睨めっこするんじゃねェぞ!」

輝くばかりのその笑顔は無邪気な少年のものだったが、その後なまえの耳元で囁かれた「ちゃんと覚えたらまたご褒美やるからな?」と口走る声は確かな艶を含んだ『男』のものだった。


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