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贈る悪童
ネタ提供ありがとうございます。


成金趣味の商船連中から手に入れた戦利品は数あれど、趣味がいいと思った事など一度も無かった。無駄にゴテゴテしていて、下品だ。
ただ宝石自体、質が素晴らしく(キラーが太鼓判を押したのだから間違い無いだろう)物がいいだけに捨てるには惜しい。それを掌で転がして考えること暫く。

「こんなモンか…」

分解して自分好みに仕立て直す事が何時の間にやら趣味紛いになってしまっていた。細かい作業は嫌いでは無い。

「キッド…?居る?」
「オゥ。」

そうやって今日も暇に任せて『作業室』で指輪を弄っている最中、偶々訪れたなまえがその姿を見つけて感嘆を漏らしたのが事の発端である。

「…すごい…っ。これみんなキッドが作ったの?」
「まあな、」

己が手掛けたベルトのバックルを両手に持って振り向くなまえの瞳は尊敬しています!と言わずとも訴えかけていた。彼女の前に鎮座する棚や大きめの箱(ジュエリーボックスというには粗野な作りだ)にはこの船のお頭が手作りしたアクセサリーが並んでいる。

「きれい、」

男物の腕輪や、飾りが施された短剣。どれも作った本人の気質を滲ませていて力強さをイメージさせた。けれどもそのデザインは決して下品では無い。寧ろ男性的、と言い表せるだろう。

「欲しけりゃやる。」

隣にどかりと座り込む男は己よりもかなり小さな頭を見下ろしながら、ぶっきらぼうにも呟いた。それを何時ものキッドだなぁ、と微笑ましく眺めてなまえはそうだねと一言声に出し、それから首を横に軽く振っていた。

「…こんなに高価なもの、貰えないし…これはキッドに着けていて欲しいなぁ…」

キラキラしててキッドの赤い髪によく似合うから、と頬を染めながら語るなまえに見惚れてしまったのはこの男の場合仕方無いことだろう。なまえが本心からそう言っているのだとわかり切っているのも、ある。

「まぁ、おまえにゃ似合わねェモンばっかだな。」
「んー、私にはサイズが大きいかも。」

指輪一つ取ってもなまえの一番太い親指でさえブカブカでだった。そしてそもそもなまえのイメージにこれらは合っていない。と男はぼんやりと彼女の細い指を眺める。男物だからしょうがないのもあるがどうにもしっくり来なかった。
男はフムと顎に手を当てて考えること一巡、ちょっと待ってろとだけ言うとガサゴソと棚を漁り出した。

「どうしたの?」
「…少し時間が掛かるからな…なまえ、暇になるから出てろ。出来たら呼んでやる。」

キラキラとした宝石と、幾つかの工具の様な物を取り出した男は何か作るらしい。なまえが手持ち無沙汰になると予見して彼女にそう伝えてやっていた。

「…もしよかったら、私見ててもいい?キッドが作ってる姿見たいな、って。」
「構やしねェが…とてつも無く暇になるぞ。」
「ううん。」

真剣な顔のキッド、かっこいいから見惚れちゃってると思うの。と目尻を潤ませたなまえに不覚にも絶句してしまった男は「好きにしろ」とまたもぶっきらぼうに早口で話したのであった。

「…、」

それから暫くは無言が続いていたが会話無くとも不思議とお互いに苦ではなかった。ただ、矢鱈嬉しげに己の手元と顔を交互に眺めてくるなまえに対して少々照れ臭かったのはあったが。

「…。」

時折工具が金具と擦れる音と遠くから聞こえる波の音が響いて、最後にパチンと工具入れの蓋が閉まった音が鳴るのだった。

「…出来たぞ。なまえ、ちょっと後ろ向け。」
「うん…、」

なまえはやおらに後ろを向いて髪をその手で一つに束ねた。露わになった首筋の白さに心中を揺さぶられながら男は小さな金具を器用に外し、その首に繊細な鎖を纏わせてやる。

「顔上げろ、もういいぞ。」

ほら、と手鏡を渡してやるとなまえはそっと受け取って、それから途端に感嘆が漏れた。

「わぁ…、キッド、すごい…ほんとにすごい…」

ずっと隣で見ていた筈であるのに自分の首元に飾られるとそれとはまた別に感慨深いのだろう。

「あっと言う間に作っちゃうんだね…すごいなぁ…。」
「おまえ、さっきからすごい、しか言ってねェぞ。」
「だって本当にキッドがすごいんだもの。」

細い銀鎖とひとつの滴型の青い宝石でできたネックレス。なまえの胸元で存在を示す様にきらきらと輝いて、彼女の肌によく似合っていた。為つ眇めつ角度を変えて胸元を鏡で見つめるなまえは幼子の様で可愛らしくも、その瞳は恋に溶かされたおんなの眼差しであった。
出来は上々だと男は満足そうに口角を上げた。なまえがこんなに喜ぶとは思わなかったがまあ、それは喜ばしい誤算ということにしておこう。

「ありがとう。宝物がまた出来ちゃった。」

胸元をそっと抑えてはにかむ彼女の眦はほんのりと雫が生まれていた。

「…泣く程嬉しいのかよ。」

機嫌良いまま茶化してやると「うん、すごくうれしいの…」と素直に頷かれてしまって男は辛抱堪らなくなる。

「そうか、」
「本当にありがとう…大切にするね。」
「オゥ。」

それもその筈、頬を真っ赤に染めているのだ、幸せですと全身で語りかけているのだ、己のおんなが。
ならする事といったらひとつだろう。

「ぇ、わっ…キッド…っ?…ひゃ、」

湧き立つものに逆らわず。気付けば愛しいおんなを組み敷いて、がぷりと首筋に軽く歯を立てていた。その舌に彼女の温度になった銀鎖が絡みつく。

「ん…んん…っ、」
「は、ァ…」

首筋から離れて今度は小振りな唇にかぶり付く。その柔らかさに背中がゾクゾクと粟立ち、忽ちに血液が逆流した。小動物が震えている姿に否応無く熱が生まれていく。

「報酬、くれ。」
「…ぁ…っ、」
「『おまえ』でくれよ…なまえ…」
「きっど…っ、ひゃあ、」

他のモンは要らねェと彼女の体のあちこちをあぐあぐと甘噛みし続けて、それから痺れに揺れ動く瞼に唇を落としてやった。

「こんだけ喜ばれて…盛らねェ野郎がいたら…いっそ見てみたいモンだ。」
「んっ、くぅ、」
「誘うなよ…ンな顔して…なまえ、」
「あ、私、そんなつもりじゃなくて…っ、」
「無意識が一番タチ悪ィんだよ…」

熱くなる吐息と共にそんなことを口走ってやるとなまえは殊更に真っ赤に染まってしまったのであった。
心底、堪らない。ゴクリと喉が鳴る。
彼女の胸元で消えない涙がきらりとまた光ったのを皮切りにおとこはおんなの服を奪い始めたのであった。


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