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ママの初恋

なれそめ、ですか?
そうですねー…カフェでアルバイトしてたんです、私。その時出会ったのがきっかけ、でしょうか。オープンスタッフとして入ってそのままそこで働いてました。はい、大学の休講日や休日に。
駅前店で世界的なデザイナーさんがコーディネイトした店内、とかで力を入れていましたから彼が視察とオープニングセレモニーに出席したんです。
第一印象は……大きな人だな、でした。オールバックが似合ってるな、と次に思いましたね。そう、それと横一文字に走る傷痕に釘付けになって大慌てて視線を外したんです。だってその瞬間目が合っちゃったものですから。失礼な事を!と慌てました。
……だからその後声を掛けられて、本当に生きた心地がしませんでした。開口一番にすいません!て言っちゃうくらいにはテンパってましたねぇ、あははは…。てっきり私怒られるとばっかり。
でも怒られませんでしたよ、「きみは『すいません』が挨拶代わりなのかね?」と笑われましたけども。実はこうこうで、ずっとお顔拝見してしまったから申し訳なく謝りました。と言ったらまた笑われましたね…。
たぶん馬鹿正直なやつだなーと思われたんでしょう。
そこから彼と仲良くなっていったんです…んー…仲良く、とはまた違うのかしら。気に掛けてもらえる、の方が近い、かな。セレモニーの後もちょくちょく顔を見せてくれて、こんな点を改善したらいいのでは?こんなメニュウが人気でしたよ…なんて情報交換なんてして、時々愚痴を聞いてもらえて。とっても頼りになる上司だったんです。
まさか彼が社長さんだって夢にも思ってませんでした、部長さんか地域担当者さんかと思ってたんですよ。オープニングセレモニーの時に紹介されたんでしょうけど、あれは忙しくてまともに聞いてませんでしたから……。
自分が雇ってもらってる会社の!一番トップの人に!ぐち!
穴があったら入りたいって気分を味わいました…。ギクシャクしてしまったんでしょうね、だって社長さんですから滅多な事言えません。けどその後に「参考になるから聞かせろ。社長だろうがアルバイトだろうが質の向上を目指すのがおれ達の務めだろうが。」と言われて、目から鱗でした。
あぁこの人はこういう人だから社長になったんだな、と。その時から頼りになる上司から尊敬する存在に変わったんです。
憧れのおとこのひと、にもなってたんでしょうね。当時は自分でも全く気が付いてませんでしたけども。
……歳が離れてましたから、お父さんを尊敬する感覚だろうって思い込んでました、最初は。
『自分の感情』が分かった後は…思い込もうと、していたんでしょうね傷付きたくなくて。だってとっても魅力的だったんですもの、普段はぴしっとしてる髪型がひとふさ、こう…はらりと落ちてそれをうっとおしそうに払う姿が男の人に使っていいのかな?つ、艶っぽくて甘い香りを振りまいてるみたいで…あ、すいません、語ってしましました。
えー、と。そう、それでこんな二十歳かそこらの学生より大人の駆け引きできる素敵な女性がお似合いだって、頑張ろうともせずに諦めてました。
あはは、でもこれもやっぱりすぐばれちゃったんですよね。呼び出されたんです、本社の、社長室に。いちアルバイトの学生が。伝えに来てくれた店長が戦々恐々だったのが変に印象に残ってますねぇ。
『おまえ何やらかしたガネ!』って。
で、本社の社長室まで来たらそのまま押し倒されました。はい、誇張なんてしてません。ソファにこう、ぐいー。と。

「良いことを三つ、教えてさしあげよう。お嬢さん。」

ひとつ、おれは愚鈍でも無ければ愚直でも無い。
ふたつ、おれに似合うのは聡く、見栄え良く、柔軟な思考を持った女だ。
みっつ、おれはお前以外の女を側に置く気は無い。

そうです、すごーくオレサマな発言でした。でも惚れた弱みがあったのと、彼があんまりにも、熱っぽくて。
押し倒されてずっと、低い声で暑い眼差しで囁かれちゃったんです。幾ら経験不足な私でも分かりました。自惚れてもいいんですか、って聞いちゃったら「事実は自惚れ、とは言わない。」って。
それで?それから?
はい、私は、

「花嫁を酔っ払わせて何を言わせているんだ…?」
「うふふ、わたしはこの子の惚気に付き合っていただけ。……お幸せに、ミスター。」
「クロコダイルさん…っ!」

見かけはおっかなくてクールな印象だけれど実はとっても情熱家な彼と、私は。
こうして結婚する事になったのです。


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