散文的な何か
※予告なくmain頁に移動する場合があります。
*表記=アンハッピーエンド等ご注意を。


31日(魂喰/ソウマカ)

2009/11/02





「…うおぉおおお!」

 真っ黒いスーツを身に纏い、ピアノを弾いている俺がいた。俺の後ろには、赤い色のコサージュが胸元に付いた真っ黒いドレスを着ているマカがにこにこ笑いながら立っていた。一曲弾き終わると(何の曲かは覚えていない。なんとなくメロディーは曖昧な感じで頭に残っている。けれど思い出せなくてモヤモヤする)、マカはパチパチと俺に拍手を贈る。そしてまたにこりと笑う。なんとなく良い感じのメロディーのレコードが流れたから、まあとりあえず一曲踊ろうかと手を差し出した。「ほらぼーっとすんなよ」とマカの手を引くと、黒色だったドレスが赤く変わり、「ソウル」と名前を呼んでにこりと笑いながらドン!と俺を谷底に突き落とした。
 そんな夢を見た。

「……り、リアル…」

 にこりと笑って俺を突き落としたマカが何故だかリアルに感じて、不覚にも飛び起きてしまった。ぽたりと垂れた汗がシーツに染み込む。

「…クールじゃねぇ」

 意味不明な夢の一つや二つ、大声を上げるほどのものでもないだろう。夢の中のマカの笑顔を思い出して(やってらんねぇ)と溜息を吐き出した。

「…冗談じゃねぇよ。あいつがんな事する訳ねぇだろうが。俺疲れてんのか?」

 ボリボリと乱暴に頭をかきながら、自分の腹の上でころんと丸まって眠っている黒猫を見下ろした。こいつの重さに影響されたのだろうかと思うと、本当にガキくさくて厭なくらい格好悪い。こんなところを夢の中で共演したあいつに見られなくて良かったな、とまた格好悪い事を考えて頭(こうべ)を垂れた。

「…んあ?」

 そういえば今日はマカの怒鳴り声を聞いていない。生真面目なマカは時間にも真面目で、勿論遅刻なんて以っての外だ。いつもなら「早く起きろソウルのばか!」と頬っぺたを赤くして怒鳴り込んで来る時間なのに、今日はどうしたのかと時計を眺める。

「ブレア起きろ」
「にゃー?」

 マカに怒られたい、という様な性癖は持ち合わせてはいないけれど(俺は変態じゃないし)、あいつの怒鳴り声がなければないで、それも気になってしまう。いや、だから変態だとかそんな訳ではないけれど。
 欠伸をしながらマカがいるだろうリビングに足を向ける。ブレアは猫の姿のまま、部屋の窓から軽やかに出て行った。

「…おいマカ」
「おはようソウル。遅い」
「…おー、わりぃ」
「早く着替えて。遅刻する」
「おー…。てか今日いつもより遅くねぇ?」

 この時間ならマカはとっくに死武専に向かっているはずだ。マカも遅刻か?んな訳ねぇか。今日何かあったっけか?そんな事を考えながら壁に掛けてあるカレンダーの日付を目で辿る。ああ、そういえば昨日死神様が何か言っていた様な気がする。

「…おー?」
「ソウル、あんた今日のハロウィンパーティー忘れてるでしょ」
「ハロウィン…」

 ああ、そういえば今日はそんな日だったっけ。お菓子くれなきゃ悪戯するぞーってやつか。いきなり他人の家に上がり込んで「お菓子頂戴」だとか、どんだけ我が儘な奴なんだ。

「で?」
「……で?じゃない!」
「ぶっ…!」

 勢い良く、手にしていた物を投げ付けた。見事顔の中心にクリティカルヒットする。けれど痛みは全くなく、マカが投げたそれがぼたぼたと床に落ちた。

「それ、ソウルの」
「…猫耳〜…?」

 ひょいと指で掴むと、黒色の猫耳のヘアバンドが現れた。いくら何でも猫耳はないだろう。クールな男に似合う物じゃないのは一目瞭然だ。ああ、駄目だ泣けてきた。

「…いや、これはないないない」
「文句言うな。ラグナロクと同じ黒猫よ」
「はぁ?ラグナロクもこれ着けんのかよ」
「一応ね。クロナは白猫」
「猫ねぇ…。クールじゃねぇ…」
「ソウル男らしくない」
「そういう問題じゃねぇし…」

 (お、そういえばマカは何の格好をするんだろう)と思いながら、テーブルに置いてあった綺麗に整った三角形のおにぎりを頬張る。具の梅干しが少し酸っぱい。

「それ椿ちゃんからの差し入れ」
「あいつら来てたのか?」
「ソウルが起きないから先に行ってもらったの。ほら着替えて」
「へいへい」

 ごくんと飲み込んで渋々立ち上がる。これ以上ゆっくりしていたら本当に遅刻してしまう。マカチョップを喰らうのは勘弁したいところだ。とりあえず猫耳はスルーするとして、黒色のスーツはクールだから着替えてみる事にした。

(夢の中でもスーツを着ていたっけな。てか、それって)

 という事はマカは黒いドレスに赤いコサージュなのか、と夢の事を思い出して一人焦る。予知夢だとか、そんなオカルトな事はマカチョップと同じくらい勘弁して欲しい。夢が現実になるなら、自分はマカに突き落とされてしまうという事じゃないか。

「何、ソウル」
「…いや別に」

 恐る恐る視線を移す。マカが着ている問題のドレスは夢の中と同じ黒色をしているけれど、丈は少し短くて赤いコサージュも付いていない。代わりに腰の部分に大きめのリボンが付いているデザインだった。ただの夢に振り回されて焦る自分は本当に格好悪い。それでも夢とは違ったという事実に安堵する自分は、こんなに小さい男だったのかと肩を竦める。

(…こんなのクールじゃねぇ)

「ソウルどうかした?何か変じゃない?」
「んな事ねぇよ」
「あっやしいなー」
「…なぁ、その服ってよ」
「一応、魔女?椿ちゃんとお揃いなのよ」
「…ふぅん」
「何よ」
「べっつにー」
「どうせ、だっせーとか言うんでしょ」

 ああ、確かにダサい。夢の事で、ああだこうだとくだらない事をぐだぐだと考える自分はダサい。格好悪過ぎる。凛としたマカとは違い、自分はお子様レベルの魔鎌なのかと思うと気分は更に下降する。彼女の前だけでも格好良く、強く在りたいと思う自分はただの馬鹿なのか。

「…マカチョーップ!」
「ふべ!」
「良く分かんないけどさ、元気出せよな」
「…殴る事ねぇだろ」
「うん、ごめん」
「…いてぇよ」
「うん、まじごめん」

 でもまあ。こいつを守るためにも死神様のデスサイズになるためにも、今以上に強くなる事は必要不可欠な事なのだ。ダサい事はしていられない。多少ダサくてもクールな男にならなければならない。矛盾していてもそれが彼女と自分のためになるなら、格好良く強く在る、ただの馬鹿になってやろうじゃないか。

(猫耳は嫌だけど)

 マカのために。
 そう思っている自分は最初からただの馬鹿なのだ。












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最終的にハロウィンネタじゃなくても良いんじゃないかと思ってしまいました。
ソウマカが増えますように的なお話し。





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