付き合ってない
やっと退屈な授業が終わって、倉持が来る前にさっと携帯を確認する。 返事はきてない。まあ授業始まる直前に俺が返事をしたから当然と言えば当然なんだけど。
「おい御幸!さっきの続きだ!」
「あーもう分かったって。すぐ紹介するから少し待ってろ」
授業が終わったってことは、真面目なあいつはすぐに返しにくる。
「御幸」
ほらな、俺の言った通り。 ちひろのことなら俺は誰よりも知ってる。
返された教科書を机にしまうと何かが投げられてそれを片手でキャッチする。 正体は飴の袋で投げたのはもちろんちひろ。
「あはは、ナイスキャッチ、さすが野球部」
「今のは野球部じゃなくても誰でも取れるっての」
くすくす笑うちひろは自分に向けられる視線を察したらしく倉持の方を見る。
「えっと、倉持君、だよね?」
「え、お、おう。ってなんで俺の名前知ってんの?」
「御幸から話は聞いてるから。私は隣のクラスの山手ちひろ、御幸とは幼馴染なの、よろしくね」
お近づきの印にこれどうぞ、なんて言って俺にもくれた飴を渡してじゃあねと自分の教室へと戻っていった。
明らかにデレデレしている倉持を見て俺は小さく笑った。あんな社交辞令みたいなやり取りだけで、こんなに喜んでるし。
「それ、食べない方がいいぜ」
「はあ?何だよ嫉妬かよ、そんな脅しは通用しな…ってすっぱ!なんだこりゃ!」
「ほらな、だから言ったろ?」
ちひろが飴を渡すなんて悪戯の他ない。 まんまと騙された倉持を見てなんとなく優越感に浸りながら俺は貰った飴を適当な奴にやる。
「つか、幼馴染とかいたのかよ聞いてねぇぞ御幸」
「そりゃ、話してないからなあ」
「このっ…テメェも彼女持ちかコラ!!」
残念、付き合ってはないんだなーこれが。
…俺が、突き放したからな。
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