広がっていく亀裂
結局あの日は日が落ちるまで2人に付き合わされて、2人も相手をした俺は完全に疲れ切っていた。 風呂を済ませて倒れ込むようにベットにダイブして、ずっと放置していた携帯に目をやる。何やら新着メッセージが来ているようでそれを確認しようとしたけど、睡魔に襲われた俺はそのまま眠りについた。
次の日の朝、俺は珍しく時間ぎりぎりに起きてバタバタと朝練へ向かう。 朝練も終わってようやく一息ついたところで、昨日見そびれていたメールを思い出した。
誰からか確認してみれば、夕方にちひろからメールがきていた。 そしてせっかく忘れていた昨日のことが、思い出される。
「…くそ」
俺は本文を見ずにそのまま携帯の電源を切ってから鞄に入れて、教室へと向かう。 別にたいしたことじゃないであろうメールでさえ、今の俺は見るのを恐れていた。
教室ではちひろが同じクラスじゃないことが今は唯一の救いで、倉持もあまり俺のところへは来なかった。 来てもわりと普通に話せる。 練習や試合のことばかりだからかもしれない。それでも頭の中には昨日の光景がチラつく。
正直、今は倉持とは関わりたくなかった。
そして昼休みになればちひろはやってくる。 となれば3人で話すことになる。 そんなの耐えられるわけなくて、適当に理由をつけて倉持に話しては俺は逃げるように教室から出ていった。
そんな日が、三日も続いたある日のこと。
「おい御幸」
朝練が終わって教室へ向かおうとしたところで、倉持が目の前に現れた。 すげー怒った顔で、俺を睨み付けてる。
「…なんだよそんな怖い顔して」
「とぼけんな。 テメェどういうつもりだ」
「どういうって、何が」
「このやろ…っ!」
ガッと俺の胸倉を掴んできてさらに睨み付けられる。 俺は微動だにせず冷めた目で倉持を見る。
「お前ちひろちゃんが好きなんじゃねぇのかよ!」
「…お前には関係ない」
「ふざけんな! ここ最近ずっと避けやがって…好きならちひろちゃんのことも考えてやれよ!」
何を怒っているのかと思えばちひろのことだった。 そしてちひろのことが分かったような口振りで俺を説教する倉持に、とうとう俺は我慢が解かれた。
「…っせーな…お前に俺の何が分かるってんだ!」
「分かるわけねーだろ! けどこれだけは言える、お前は最低な奴だ」
胸倉を掴む倉持の手を乱暴に振り払ってやれば、突っかかってくる様子もなく倉持は拳握りしめて背を向けた。そして去り際に、また睨み付けられてこう言われた。
「お前がこれからもそのままでいるつもりなら、力づくでもちひろちゃんをお前から引き離してやる」
倉持の言った言葉の意味は、完全に頭に血が上っている今の俺には届かなかった。
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