お前の隣は | ナノ

気を紛らわす

信じられなかった。
信じたくなかった。

「…くそ、何がどうなってんだ」

2人を見失ってから、俺は意味もなくふらついていた。

さっき見た現実が、頭から離れない。
俺に突き刺さる現実。

追いかけてもよかったはずだった。
問い詰めてもいいはずだった。
けど情けないことに、動けなかった。

そんだけ今の俺は動揺してるんだなんて、認めたくなくても思い知らされる。

今、あいつら何処へ行って何をしてんだろうか。

ふと携帯の画面を見れば、朝からやり取りをしていないことに気づく。
もし今、俺がちひろにメールをして呼び出したら、ちひろはどうする?倉持を置いて俺の元へ来るのか、理由をつけて断るのか。

…俺の元へ来るのが、当然だろう。
そう思ってるはずなのに、俺の手はぴくりとも動かない。
倉持を選ぶんじゃないかって、俺はどこかで恐れている。

最近まであんなにも近かったちひろの存在が、今はすっげー遠く感じてるなんてな。

「…ははっ」

自嘲気味に小さく笑って、俺は寮へと戻った。一人でふらついても、ちひろのことばかり考えてしまう。だから練習して気を紛らわそうと考えた。

「…あ、御幸センパイ」

「…おー、降谷か。何してんだそんなとこで」

「いや、ランニングがてら御幸センパイを探してて」

「え、俺を?」

もやもやした気持ちのままようやく寮に帰り着いたところで、降谷と出くわす。
俺を探してたという降谷はどうやら球を受けてほしいらしい。

ほんとこいつの頭はボール投げることしかねぇのな。

「…まあ、俺も暇だしたまには付き合ってやるよ」

用意して来るからお前も用意しとけと言えば走っていきやがった。
どんだけ投げたいんだよまったく。

部屋に戻ってグローブとその他諸々用意して、携帯はベットへと放り投げた。

「あ!ずるいぞ降谷自分だけ球受けてもらうなんて!」

「…」

「無視すんな!
御幸一也!俺の球も受けろ!」

「だから俺センパイな。
2人同時に相手はさすがに無理だわ。交代交代なら相手してやってもいいけど」

「…」

うわー降谷の奴明らかに嫌そうな顔してやがる。
ほんとこいつらの相手は疲れる。
まあそこが面白いからいいんだけど。

「んじゃお前ら一回ランニングしてこい」

「よっしゃあ!」

競うように走り出した1年コンビを見て俺は笑った。
何だかんだ、あいつらのおかげで気を紛らわすことが出来てる。

「おーいお前らいつまでランニングしてんだー
球受けてほしいんじゃなかったのかー」

仕方ねぇから感謝の意味も込めてたまには2人とも相手してやるか。

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