この目で見る現実
せっかくの休みだってのに、あの2人のことが気になって全然寝付けなくて朝早くに目が覚めた。
「…ほんとに、今日会うのか」
今更になって、やっぱり沢村の聞き間違いだったんじゃないかって考えがよぎる。 けど本当に会うとしたら、待ち合わせは何時で何処なのかとか一体会って何をするんだとか細かいとこまで気になって余計に眠れなくなった。
もし今日会うのなら、倉持は何処かへ出かけるはず。
「…くそ、なんでこんなに気にしなきゃなんねぇんだよ」
不安は不満へと変わっていき俺を苛立たせる。 それを振り払うために、バットを持って素振りをしに外へと出た。
無心になってバットを振り続けてどれだけの時間が経ったんだろうか。 次第に寮に住む人間が起き出して各々何処かへ出かけたり自主練をしに出ていく。
既に汗だくな俺は素振りをやめて軽くシャワーを浴びるため風呂へと向かう。 そして洗面所には、今一番会いたくない奴がいた。
「ふあ〜…おう御幸。なんだよせっかくの休みに朝早くから素振りか?そんなに暇なのかよ」
「俺がいつ素振りしようと勝手だろ。 …そういうお前は何か予定でもあんのかよ」
「ヒャハ、教えてやんねー」
べーっと舌を出して挑発してくる倉持。 自主練するのであれば、隠す必要もないだろう。 わざわざ隠す、ということは…
何処かへ、出かけるということ。
ちひろと会うとまだ断定出来るわけじゃない。 けど可能性は高い。
適当に倉持の言葉に返事をしつつさっとシャワーを済ませて倉持の様子を盗み見ながら着替える。
そして気づけば、俺は外へ出かけた倉持の後を気づかれないように追いかけていた。 沢村の言葉は聞き間違いだったんだと、それを確かめるために。
人混みが増えていく中で、見失わないように追いかける。 そして倉持を追う視線の先に、
「あ、倉持ー」
「なんだよ来るの早いな、そんなに待ち遠しかったのか?ヒャハッ」
「…ちひろ…なんでだよ」
笑顔で倉持を迎えるちひろ。 並んで歩き出す2人。
待てよ、どこ行くんだ。 なんで倉持と歩いてる? 手を繋いでるわけじゃない、けど並んで歩いてる。
追いかけようと思っても、俺の身体は言うことを聞かずその場から動けなくなった。 そして2人は、人混みの中へと消えていった。
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