微妙にずれ始めた関係
教室へ戻れば、既にちひろは自分の教室へと戻っていていなかった。 チャイムも鳴ったし当然と言えば当然なんだけどそれが今は不満を募らせる。
「お前ずっとどこ行ってたんだよ、ちひろちゃん来てたぞ」
「…別に、どこだっていいだろ」
席に着こうとすれば後ろから倉持に話しかけられて、自然と冷たい態度を取っている自分にも苛立つ始末。何か言いたげな倉持だったが教師が来たことで渋々自分の席へと戻っていった。
放課後になっても頭にチラつくのは昼休みに聞いた沢村の言葉で、練習が始まるまでに何度ちひろにメールして聞こうとしたことか。
倉持とはあれから話すことはなく互いに練習に集中している。
練習が終わればいつものようにちひろが俺を待っていて、いつもならけっこう好きだったりするこの時間は今の俺にとっては窮屈でしかなかった。
「御幸…?」
「…何」
「…何を怒ってるの?」
「別に何も怒ってねぇよ」
「…ならいいんだけど」
いつもと変わらないように接しているつもりでも、ちひろは俺がいつもと違うのを察しているらしく心配そうに俺を見てくる。 けど沢村が言っていた話には全く触れてこなかった。
俺はどこかでちひろが話してくれるのを待っているのかもしれない。 俺から聞くんじゃなくて、ちひろから話してくれることで安心しようとしているのかもしれない。
けどその淡い期待を裏切るかのようにその話には一切触れてこないまま、時は過ぎていく。 ちひろと微妙に気まずい雰囲気になることが増えて、倉持とも微妙な距離が出来た。
そして俺達の関係は微妙にずれたまま、気づけば練習が休みの日は明日へと迫っていた。
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