浮上する疑惑
「…つかなんでこんな苛々してんの俺」
教室に入るのをやめて、気づけば校舎裏まで来ていた。
俺って、こんなにちっさい男だっけ。
「つかちひろも倉持に気許し過ぎだろ」
さっきみた光景を思い出してはまたもやもやと苛立ちがよみがえる。 気にしないようにしようと考えても、頭の片隅でチラついてしまう。
…俺ってこんな嫉妬深かったのか。
今までずっとちひろは俺の傍に居て、離れても俺を見てくれていて、それが当然だと思っていたのかもしれないな。
少し前と違うのは、取られる心配はないってことだけか。
そういや、倉持とのメールって何話してんだあいつ? たまに、しかやり取りしてないとは倉持からも聞いてるが…ゲームの話、ってちひろはそこまでゲームやらねぇし。 試合の日程?…そんなの俺でいいだろ。
んじゃ、一体何のためにやり取りしてんだ?
「…まさか、な」
一瞬…ちひろが倉持を気にしているんじゃないか、なんて考えがよぎった。 いやさすがにそれはないだろ。 俺が好きだって言ってんのに他の奴が気になるなんてあり得ない。
「あーっ!御幸一也!」
「…沢村か、何してんだよこんなとこで」
「それはこっちの台詞だ!怪しいぞ御幸一也!」
「相変わらず俺にはタメ口なんだな」
こんな苛々している時に…うるさい奴がきたもんだな。 そろそろ昼休みも終わるし適当に流して戻るか。
「授業サボんなよ、お前バカなんだから」
「なっ…バカって言うな!」
「はっはっは!んじゃ俺戻るから」
「あ…そういえば」
面倒なことになる前に戻ろうとしたら、思い出したように沢村の奴が呟いた。
「倉持センパイと山手センパイ、今度会う約束してるみたいなんスけど」
「…マジで言ってんのかそれ」
「ほ、ほんとだっての!俺、この耳で電話してんの聞いたんだからな!」
倉持とちひろが、会う? 今度の練習が休みの日に?
なんだよそれ、俺聞いてねぇんだけど。 俺には教えられない理由があるってのかよ。
2人が会う理由に思い当たる節が全くない俺は、苛立ちを無理矢理抑え込んで教室へと戻った。
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