試合後の一時
ほんとに応援に来たちひろ。 しかもすっげーボロボロの姿で。 それだけでどれだけ急いできたのかなんてすぐ分かる。 柄にもなく大声出して応援もしてたのには少し驚いたけど。
集合がかかってる中で今さっきしたキスの感触を思い出す。 今頃真っ赤のまま座り込んでんだろうな。
「くくっ…ほんと飽きない奴」
ようやく解散して早速ちひろの元へ行こうとしたら倉持に捕まった。
「おう御幸、どこ行くんだよ」
「そこ聞くの。分かってるくせに」
「ヒャハハ!俺もついてってやろうか?」
「ついてきたいならご自由に」
ついてきても見たくないもの見るだけかもしんねーよ、なんて挑発しておいてから何か叫んでる倉持を置いて小走りでちひろの元へ行く。
さすがにまだ赤くなったままはないだろうけど、意識してそうだよなー。
「お待たせ」
「…お疲れ様」
「あれ、何拗ねてんの」
「拗ねてないよ」
あー…やっぱさっきの意識してんだ。 だから顔合わせられないってわけか。
ほんと、分かりやすい。
ここでまた顔近づけて反応楽しむのもいいけど、ここは敢えて座り込んでるちひろの隣に座る。 そしたらちらっとこっちを見てきて、顔は合わせないままだけど座って地面についた俺の左手を右手で軽く握ってきた。
「何、また寂しくなっちゃった?」
「…別に。ただ、なんとなく」
今度は何だろうな、甘えてるのか? こういうの初めてだからさすがに分かんねぇわ。
まあでも、多分甘えてんだろう。 ぎゅっと手を握り返してやれば擦り寄ってきたし。
「…御幸」
「んー?」
「さっきからすごい視線感じるんだけど…」
「気にしたら負け」
「いや、でも…すごい形相でこっち見てる人もいるよ…」
「あれ前に話した純さん。元々顔つき怖い人だから大丈夫」
あーでもさすがにすごい顔してんな。 さては倉持の奴、チクったな。 腹立つほどにニヤニヤしてやがる。
「はぁー…ちひろ、ちょっといい?」
「え?あ、うん」
手を握ったまま、純さん達の元へ行く俺とちひろ。 緊張してるのか、貸したタオルは被ったまま俺の後ろに隠れるように歩いてるのがなんか可愛いな。
「視線が痛いってちひろが言ってるんで紹介しに来ました」
「え、と…初めまし、て…私は御幸の、」
「しーっ、それ以上は禁止」
「え?」
彼女です、って言おうとしたところを敢えて口止めする。 首を傾げるちひろに小さく笑ってみせてから、俺の口から説明し始めた。
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