会話のないやり取り
教室に着いて、自分の机の中に手紙らしきものが入ってるのが見えた。 またラブレターかなんかだろうと思いつつ、ノートの切れ端を使ったであろう紙を広げてみた。
内容見て驚いたのは言うまでもない。 ラブレターだと思って見た手紙の内容は謝罪ばっかだったから。
[あの時はごめんなさい 悪気はなかったんです そんなに気に病まないでください]
差出人の名前はない端的な手紙。 気に病んでることなんてねぇし、ここ最近女の子に酷いことされた覚えもない俺はこれが誰からの手紙かなんて分からなかった。 多分誰かと間違えたんだろう、そう思ってとりあえず手紙をしまった後、俺の隣の席に誰かが座って、倉持かと思ったらまさかの河原だった。
俺のせいで学校に来れなくなったはずの河原が、今目の前にいた。 一瞬幻かと思った。
そしてさっきの手紙を見返して、ようやく差出人が分かった。
友達とコントみたいなやりとりしてる河原を見て思わず吹き出して笑っちまったけど、そういえば俺もう河原には話しかけないとかなんとか言ったんだっけ。
あえて河原に聞こえるように嫌味っぽく俺が嫌いってこと呟けば、すげーちらちら俺のこと見てきてなんかおもしれぇって思った。
まあでも俺に話しかけることはしねぇ、つか出来ないだろうしもう関わることもねぇからいっかって思ってたらおどおどしながら紙を俺の机に置いてきて、今度はなんだって思いつつ紙を広げた。
[御幸君のことが特別嫌いってわけじゃないです 傷つけてしまったのならごめんなさい あの時言ってしまったのは、咄嗟に思いついた嘘で…私、男の子が苦手というか、怖くて だから私にはかまわないでください]
律儀な奴だな、ってのが正直な感想だった。 けど私にはかまうなって書かないだろ普通。 その文がおかしくてくそ真面目なとこがさらにおもしれぇって思って、我慢できずに吹き出した。
つか男が怖いくせになんで自分から関わってきてんだよ。 ほんと、わけ分かんねぇ。 でもこういう馬鹿っぽいの嫌いじゃねぇ。
[男が怖いってのはなんとなく察してた それなのにいきなり触れた俺も悪いし、別に嫌ってくれてもかまわない]
渡された紙の余白に返事を書いて、それを河原の机に置く。 そりゃもうびっくりした顔して俺を見てきた。 けど俺はあえて顔は合わせないで外を見る。 少ししてちらっと様子をうかがえば俺が書いた返事を読んでた。
そしてシャーペンを手に取ってまた何か書き始める。 書き終えたらすぐに俺の机に置いてきた。
[あの、ほんとに嫌ってるわけではなくて… あの時手を振り払ったのも逃げ出したのも、嫌だったというより怖かったからで… 別に嫌ったりはしてませんし、これからも嫌ったりしません]
今度の文には絵もついてた。 この間俺が見た男のキャラクターじゃなくて、女の子のチビキャラみたいなやつ。 手を合わせて焦っている表情で謝罪してるように見える。 多分、この絵が今の河原の心の内を表しているんだろう。
こうして絵にされるとすげー分かりやすくて、このチビキャラを河原に変換させて想像した。 焦る必要もないのに焦ってるのがまた面白くて、また俺は笑った。
この日から、俺と河原の会話のないやり取りが始まった。
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