嫌い、怖い
あれ以来、何故か頻繁に話しかけられるようになった。 もちろん、御幸君に。
絶対何か裏がある。 こんなに冷たくし続けているのにそれでも話しかけてくるなんて。
「もう絵描かねぇの?」 「男嫌いって本当?」 「俺野球やってんだよね」 「今度見に来てよ」
どんな質問も呼びかけも、全部無視し続けた。 関わるとろくなことないと思ってるから。
なのに、いつまで経っても御幸君は私に話しかけることを止めようとしなかった。
「茜ちゃんって呼んでいい?」
「っ、もう私に関わらないでっ」
「お、やっと口利いてくれた」
「御幸君のこと嫌いなの、だから話しかけないで!」 「俺は好きだけど、茜ちゃんのこと」
へらへら笑いながら言われて、そんなの嘘だってのは十分に理解できて、もうほんと限界だった。
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男嫌いなんじゃなくて怖がってるだけだってのは、初めて話しかけた時から感づいてた。 だから普通に話しかけてればいつかは折れて話すようになるって思って、しつこく話しかけた。
そしてようやく口を開いた河原は、俺のこと嫌いだとか言い出して、なのに顔はすげー泣きそうな顔してて、ほんとに男が怖いんだなってのが伝わってきた。
「…髪、きれいだよな」
何の気なしに髪に伸ばした手。 その手が髪に触れた瞬間、俺は後悔することになる。
今までの怯えた表情とは比べものにならないくらい怖がって、俺の手を払いのけた。 そして呼吸は荒くなって、青ざめていく。
ここまで怖がってたなんて知らなくてとりあえず謝ろうとしたけど、河原は俺の話を聞きたくないとばかりに逃げ出してしまった。
「…とんでもねぇことしちまった、かもしんねぇな」
この日から学校へ来なくなった河原。 担任はただの風邪だって言ってたけど、間違いなく俺が原因だろう。
悪気はなかったとはいえ、このまま不登校にさせたままなんて出来るわけねぇよな。
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