耐える

目が合った時、御幸君はにっこり笑ってた。
その笑顔が逆に怖い。
その笑顔の裏には何があるのか分からないから。

今度はいつ話しかけられるか分からない。
だから、気を付けなきゃ。

そう心の中で呟いて、授業が始まるぎりぎりの時間に教室へ戻る。
絶対に目を合わせないようにして、自分の席に着いた途端、横から声が聞こえた。

「教科書忘れたから見せてくんない?」

絶望を感じた瞬間だった。
今からほぼ1時間、机をくっつけなきゃいけないなんて。
そんなの、無理。

断ろうとしたけど御幸君が先生に教科書忘れたと言ってしまって、先生は隣の奴に見せてもらえって言ってて、逃げ道がなくなってしまった。

机をくっつけてくる御幸君。
やだ、近い。
元々真面目に授業受けるタイプではないけど、これじゃあ授業に集中できない。

冷や汗が出ながら完全に左側は見ないようにして授業に集中する。
お守り代わりのクローバーを筆箱から出して、左手で握る。

「…なあ、何をそんな怯えてんの?」

「!」

ヒソヒソと隣から声が聞こえる。
御幸君だ。
ちらっと視線を向けると御幸君は前を向いたまま私に話しかけてた。

「怯えてなんてない」

「嘘つき、手震えてるし」

「ほっといてよ」

「あれ、もしかして緊張してんの?
俺がイケメンだから」

ナルシストな発言しながら前を向いてた視線がこっちを見た。
今度はドヤ顔。

確かに顔は整ってると思う。
けど今の私はそれどころじゃなかった。

この近い距離が耐えられない。
まして話すなんて。
だからもう話しかけるなって意味を込めて睨み付けた。

「そう警戒するなって。俺は何もしねーよ」

「…」

そんな言葉、信じられるわけがない。
反応するから話しかけてくるんだって思いなおして、私は無視することにした。

ちらちら視線を感じながら、震える手を制御しながら、なんとか授業を耐え抜いた。

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