2人のやり取り

「河原ごめんっ」

「え…」

朝、いつも通り登校して机にカバンを置いたところで既に来ていた御幸君に唐突に謝られた。

一体何の謝罪なのかも分からなくて反応に困る私を見た御幸君は静かに話し始める。

「いやほら、お守りがなんで身に覚えのないとこに落ちてたのかって話。ブルペンに落とした犯人分かったからさ」

御幸君の言葉を聞いて呆気に取られた。こうも簡単に犯人って見つかるもんなのかと思ったし、それで御幸君が謝る理由ってあるの?

「あーえっと…端的に言うと犯人は同じクラスにいる同じ野球部の倉持って奴な。下駄箱んとこで拾ったらしいんだけどまあいらねぇ気を使ってブルペンとこに落としたらしい」

「いらない…気を使って…?」

「あーいや…まあ、くだらない理由だからその辺は割愛ってことで。で、一応報告と倉持に代わって謝らなきゃなって思ってさ」

くだらない理由ってなんなんだろう。なんかはぐらかされると余計に気になるけど、なんだか言いたくなさそうだから聞くのはやめた方がいいかな。
でも、倉持君っていつも御幸君のところに来る特徴的な笑い方する男の子のことだよね。
あ…ほら、言ってる側からまた御幸君のとこ来た。

「おう御幸、今日の練習のことで哲さん達から伝言なんだけどよ…」

「ん、分かった。つうか倉持、お前も河原に謝れよな」

「!」

会話を盗み聞きしているわけではなかったけど、御幸君の発した言葉に思わず反応してしまって2人の方を見てしまった。
そしたら倉持君と目が合って、御幸君ともまだまともに目を合わせられない私はすぐに顔を背けた。

「あー…えっと…そんな大事なもんだなんて知らなくて、その、悪かったよ」

「…」

ちらりと視線を向ければバツが悪そうに頭をかいて謝っていて、咄嗟に声が出なかった私は無意識に御幸君の方を見た。
目が合った御幸君はまるで私が言おうとしてたことを察したかのようにフッと笑みを浮かべた。

「俺に免じて許してやるってよ、よかったな倉持」

「はあ?んだよお前に免じてって腹立つな」

「許してもらえたんだから文句言わねぇの」

「チッ、お前のその顔がムカつくんだよ!」

「いででで!ちょ、まじで首締まってるから!!」

目の前でじゃれあう2人を見て何だかんだ仲が良いんだなって思うとなんだか微笑ましくて思わず小さく笑った。

予鈴が鳴ってようやく解放された御幸君は痛そうに首を押さえてため息を吐いてる。倉持君は楽しそうに笑ってる。

「あ、そうだ御幸。あの件忘れんなよ」

「…分かってるっつうの」

「ヒャハハ、まあせいぜい頑張れよな!」

「うっせ」


「?」

なんだか意味ありげなやり取りをした2人を見て首を傾げる私。なんだろう、去り際に倉持君に見られたけど私に関係あることなのかな。

いまだに苦しそうにしてる御幸君に聞いても教えてはくれなさそうだけど、とりあえず私は大丈夫?とだけ紙に書いて御幸君の机に置いた。


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