お互いに

"ブルペンの近くに落ちてた"

御幸君からの返事を見て思わず手が止まった。
ブルペン、って…確か御幸君がよくピッチャーの人と練習してるところ、だよね?
私、ブルペンの近くなんて行ったかな。

まさか御幸君、嘘をついてる…?

さっきから隣から感じる視線にもしかして…なんて疑いが芽生えるけど、今までの御幸君を思うとそんな嘘をつく必要もメリットもないしとりあえずは信じることにする。

ちらりと盗み見れば御幸君はすごくそわそわしてる。どうしたんだろう、なんかいつもと違う気がする。

私の反応をやたら気にしてるというか、なんか…すごく見られてる感じ。

少し不安を感じながらとりあえずシャーペンを手に取って返事を書き始めたら隣でホッとしたように小さく息を吐く声が聞こえた。

[そっか。
でも私ブルペンまで行った記憶ないんだけどどうしてそこに落ちてたんだろう]

思ったことを率直に書いて渡す。
別に試してるわけじゃないけど、これを読んだ御幸君の反応が気になって今度は私が様子を伺ってる。

返事を読んだ御幸君は特に焦った様子もない。いつも通り落ち着いてる。そして少しだけ視線をこっちに向けてきてハッとして私は視線を逸らした。
大丈夫、目は合ってない。

すぐに視線は紙へと戻されて返事を書き始めた御幸君。その横顔はいつも通り。やっぱり嘘をついてるようには見えない。

そっと置かれた紙を取って読もうとしたら今度はあからさまに視線を感じて、思わず視線を向けたら御幸君はじっとこっちを見てた。

よ、読みづらい…。

御幸君は私が返事を読むまで絶対に視線を逸らさないとでも言うようにずっとこっちを見てる。

見ないでとも言えない私は仕方なくそのまま返事を読むことにした。

[もしかしなくても俺が嘘ついてると思ってる?]

返事を読んで私が感じてたことを見透かされてることにハッとした。

「…やっぱりな」

私の反応を見てた御幸君は小さく呟いて苦笑した。
その顔を見てるとなんだか申し訳なくなる。

何か言わなきゃ、そう思って何を言えばいいのか考えていたら御幸君の方がノートをちぎってまた何か書き始めた。

[ブルペンの近くに落ちてたってのは本当。正確に言うと見つけたのは俺じゃなくてマネージャーの女の子。
たまたま会話聞こえて落とし主が河原だってすぐに分かったから俺が預かったってわけ。それでも信じられないならマネージャーの子にお礼がてら聞いてみ。
これで少しは疑いは晴れた?]

書かれた内容を読んでそういうことだったのかとすんなり納得してしまって、見つけてくれたマネージャーの子の名前を教えてもらった。

それにしても、やっぱりブルペンまで行った覚えがなくて気が晴れない。忘れてるだけかもしれないけどブルペンまで行く必要なんて私には無さすぎて混乱するばかり。

御幸君もブルペンに落ちてたことを不思議に思ってたみたいで2人して混乱してた。

[誰かがわざとブルペンとこに落としたのかもな]

唐突な御幸君の言葉にまさかそんなって思うけど、でも私が行ったんじゃなかったらそれしかありえなくてじゃあ誰がこんなことをってまた混乱することになった。

そして結局答えは出ないまま1日が終わって、この話も自然と終わった。

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