2度目のお誘い
誰が河原のキーホルダーをブルペンの近くに置いてったのか、犯人探しをしようにも手がかりなんて何もなくて半ば諦めてたけど倉持の奴の言葉ですぐに分かった。
「ようやくアイツと仲直り出来たかよ」
「仲直りって、別に喧嘩してねぇんだけど」
「ギクシャクしてたろ。ま、落し物のおかげで解決したみたいだけどな」
「…おい、なんで倉持がそのこと知ってんだ」
「あっ…いやまあ…なんでだろうなー」
明らかに動揺して視線を逸らした倉持を見て確信した。問い詰めたらすぐに白状したけど、そんな回りくどいやり方すんなよなったく。 河原の奴すっげー不安そうにしてたし下手したら関係悪化してたかもしんねぇんだぞ。
というわけで呆気なく犯人は見つかったんだけど、お節介な倉持は更に絡んでくる。
「で、いつ告んだよ」
「は?」
「とぼけんじゃねぇ、好きなんだろ」
「あのな…男を怖がってるって話したろ。それなのに告白なんて出来るわけないだろ」
「はぁ?あんな仲良さそうにしといて御幸のこと怖がってるようには見えねぇよ」
「そうだとしても一歩間違えば振り出しに戻っちまうんだからもっと慎重にいかねぇと」
他人事だからって無責任なこと言うなよな…。まあ最初の俺の軽率な行動のことは知らねぇから言えるんだろうけど。 それに河原のことだって、つい最近自覚し始めたっつーか…俺だってこんなの初めてだしどうすりゃいいのか分かんねぇんだよ。
焦りは禁物だって分かってるけど欲ってもんはそんなの関係ないらしい。河原の笑った顔がふとした時に頭をよぎる。また見たいって思っちまう。
「はー…なんかいいきっかけねぇかなー」
「…今度の試合観に来てほしいって誘ってみりゃいいんじゃねぇの」
「はっ?試合?」
「かっこいいとこ見せて興味持たせりゃいいだろ」
「んな単純じゃねぇって」
「まあそんな簡単な話じゃねぇのかもしんねーけど、何かのきっかけにはなるんじゃね。それとも試合観に来てほしいって言うのすら出来ないとか言うんじゃねぇだろうな」
「それくらい出来るっつうの」
「ヒャハ、んじゃ今日中に誘えよ。出来なきゃ罰ゲームだかんな!」
「はぁ!?ちょ、何勝手に決め…!」
「男見せろよ御幸!」
ヒャハハ!なんて笑いながら走ってく後ろ姿を見送って立ち尽くす。
試合を観に来てほしいって誘う?言うのは簡単だけど突拍子もなくそんなこと言ったら絶対不審に思うだろ。 けど倉持に煽られて黙っとくのも癪だしどうにかしてそっちの方向へ話を持ってって……あーくそ!どうやって持ってきゃいいんだよ!
教室に着いて自分の席に座ってから頭を抱えて項垂れる。考えても考えても何も思いつかない。 つーかそもそも誘ったところで来てくれるのか?断られたら断られたで結構傷つくんだけど。
まだ登校してない河原の席を横目で見ながら断られる想像をしてしまう。 ダメだ、やっぱ誘うなんて出来ないかもしんねーわ…。
らしくなく弱気になってきたところに河原の声が聞こえて、そういえば犯人分かったんだったと思い出して机にカバンを置いたところで謝った。 犯人は俺じゃねぇけど倉持のお節介のせいだし、強いて言えば俺が関係してたことだしな。
その後倉持がこっちきたから本人にも謝らせて、絞められた首はまだ痛むけど解決してよかったと安堵してるところに忘れかけてたこと思い出させるように倉持からの「あの件忘れんなよ」って言葉にまた頭を悩ませる。
いや待てよ、むしろ今がチャンスなんじゃないのか。ブルペンに落ちてたことをネタに試合観戦の話を振れば自然な流れに持っていける…よな。
[大丈夫?]
色々考えながら首をさすってたからよっぽど苦しかったのかと河原から心配する言葉が書かれた紙を置かれた。
「あー大丈夫大丈夫、ちょっと気失うかと思ったけど。 てかそういえば、落ちてた場所ブルペンってので思い出したんだけど…河原って前に練習見に来てたことあったよな」
冗談混じりに返事をして笑って見せて、早速本題に入る。 あの時はなんで見に来てくれたんだろうか。まあすぐに帰ったみたいだけど俺が誘ったから見に来てくれた、と思っていいんだよな。
[ちょうどあの日何の予定もなかったし、御幸君の話聞いててほんの少しだけ興味湧いたから]
すぐに返ってきた返事を見て自惚れじゃねぇんだと口元が緩む。やっぱ俺、結構仲良くなってるんじゃね?
「んじゃさ、今度の日曜試合あんだけど、観に来ない?でもってあわよくば応援してくれたら嬉しいなーなんて、はは」
不自然に聞こえないように気を配りながら、さり気なさを装いながら誘った。これならきっと嫌がるというか拒否されることは無い、と思いたい。
俺の言葉を聞いた河原は面食らったような顔をして固まってる。あー…やっぱり時期尚早、だったか。 どう言い訳しようかと焦った頭で考えてると河原の視線が机に戻ってサラサラと字を書き始めた。
なんて返事が返ってくるのか気が気じゃなくてそわそわして河原の方に無意識に目がいく。表情は…普通だな。嫌がってるようにも困っているようにも見えない。でも喜んでるようにも見えないし、嬉しそうにも見えない。結局どっちなんだ…。
書き終えたらしい河原はシャーペンを置いて俺の方を向いた。盗み見てたことがバレないように視線を逸らす俺。そっと机に置かれた紙を軽く深呼吸をしてから手に取る。
[今のところ予定はないから、見に行けるかも もちろん、見に行ったら応援するよ]
「っはぁ〜…よかったあ…」
内容を見て安心して、思わず安堵の溜め息が出た。
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