前とは違うこと
河原が俺の前で笑った顔を見せたあの時、なんて言えばいいのか分からねぇけど胸の中に湧き上がるものがあった。 嬉しいって気持ちもそうだけど、なんていうか、ときめき?みたいな。
今まで感じたことなかった感情にどうすればいいのかも分からねぇし、なんか、なんとなく河原のことも見れなくて話しかけも出来なかった。 けど河原のことが前よりも気になっているのは確かで、もしかしなくても意識してるのは明白。
今までどんな顔して話しかけてたっけ。どんな話してたっけ。怖がらせないようにってのは考えてたけど他のことは全然思い出せなくて、何か話しかけたいとは思っても話しかけられずにいた。
次の日になって教室に河原の姿見つけては自然と目で追いかけてて、なんか俺きもいなって自分の事ながら苦笑が漏れる。
朝礼が近くなって河原が自分の席に戻ってきたのを見てはとりあえずおはようだけでも言おうと視線を向けて、同じタイミングで河原も俺のこと見てきて、ドキッとしたのを隠すように自然体を装っておはようと言う。 そしたらおはようと返事が返ってきた。
まさか返してくれるとは思ってもなかったから一瞬呆気に取られて固まっちまったけど、やっぱ前進してんだなって実感したらまた湧き上がるもんがあって、無意識に笑ってた。
自分で思ってる以上に河原のこと意識し始めてるのに気づかないフリをして、後で見ようと思ってたスコアブックを眺める。
何か話したいなーなんて考えてたら俺の机にそっと紙が置かれた。河原から話しかけることなんて初めてのことでそりゃもう驚いた。
なんか、昨日の件から河原の俺に対する印象変わった?
「なー河原、」
「…っ」
手紙を読まずに直接話しかけてみればビクって体震わせる河原。やっぱ印象変わったとしてもいきなり話すなんて無理か。
「ごめん、やっぱなんでもない」
「…え、と」
「そんな顔すんなって、ほんとなんでもないから」
俺がいきなり話しかけたことですっげーおろおろしだして、少し申し訳ない気持ちになりながらなんかもうそういう姿まで気になっちまうもんだから、この気持ちを誤魔化しようがない。
とりあえず机に置かれてた手紙をそっと手に取って内容を読む。
[おはよう 今更聞くのかって思うかもしれないけど…私のお守りってどこで拾ったの?]
あ、そういえばそれ俺も気になってて聞くの忘れてたんだった。
[ブルペンの近くに落ちてた]
なんでそんなとこに落ちてたのかってこっちの質問はとりあえず置いといて端的に返事書いて河原に渡す。 すぐに返事を確認し始めた河原だけど、考えるような素振りをしてじっと紙を見つめてる。 もしかしてブルペンって伝わらなかったんじゃって思って補足しようかとしたら、河原の手が動き出したのを見てちゃんと伝わってたって安堵した。
そして返ってきた紙を受け取って、それをすぐに読み始めた。
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