笑った顔

今の気持ちを、感じてることを、隠さずに話そう。

その結果御幸君がどう感じようと、悪い方に捉えられようと、それでもかまわない。
今まで優しさに甘えてきたツケがきたんだと思えるから。
今の顔がなくなるのなら、それでいい。

[ごめんなさい
御幸君のこと信じたい気持ちもあるけど、完全には信じきれない
でもお守りを見つけてくれたのは事実だから、ちゃんと返してくれたから、感謝はしてます
本当にありがとう]

短いけど、ちゃんと自分の気持ちを書いた言葉。
そして久しぶりに、絵も添えた。どんな表情にすればいいのか分からなかったけど、笑った顔にしようと思った。そしていつもは知ってる漫画のキャラとかで描くけど、今回は…御幸君を描いた。

御幸君の今の顔は嫌だ、笑った顔が見たい、そう思いを込めて。

キャラっぽく、しかもラフに描いてるから本人だとは気づかないかもしれないけど、それでも御幸君を描いた。

さらっと描き終えて、まだ外を眺めてる御幸君の机にそっと紙を置く。
どういう反応をするのかは分からない、こわい。でも、不思議と後悔はしてなかった。

手元に返ってきたお守りを祈るように両手でぎゅっと握りしめて、御幸君が気づくのを待つ。

…少しして机に視線を戻した御幸君が紙に気づいた。
すごく驚いた顔をしてる。
でもこっちを見ることはしなくてすぐにその折ってある紙を広げて読み始めた。

「…っ」

びくびくしながらも反応が気になってずっと御幸君を盗み見ていたら、読み終えたらしい御幸君は手で口元を隠してから私とは反対の方向を向いた。

…やっぱり、引かれちゃったかな。幻滅されたかな。

私のしたことは間違いだったのかもしれない、そう思いながら見えない御幸君の顔を見ていたら、気のせいかもしれないけど御幸君の頬は微かに赤みを帯びていた。まるで、照れてるみたいに。

どういうことなのか分からなくて、でも授業中だしまして声をかけることなんてそもそも出来ない私はただ御幸君が返事を書くのを待つしかなかった。


…いくら待っても御幸君からの返事はない。
それにずっと私の方を見ないように、見えないようにしてる。
やっぱり照れたように見えたのは気のせいだったんだと、関わりたくなくなったんだと思っていたら授業は終わった。

休み時間で騒がしくなる教室。
動かない御幸君。

仕方のないことだけれど、さっきみたいに胸が痛んだ。

「…あの、さ」

「え…?」

いたたまれなくなって席を立とうとした瞬間、周りの声にかき消されちゃいそうなくらい控えめの声で御幸君に声をかけられた。

「これ、俺だろ」

「あ…う、ん」

「なんていうか…俺って、河原からこう見えてんのな」

「…」

「あー、別に怒ってるわけじゃなくて…その、まあ、嬉しかった?みたいな」

「…?」

嬉しい…?
なんで、嬉しいの?
自分を描いてくれたから?
そんなことで、嬉しいの?

言葉の意味が分からなくて首をかしげる私を見た御幸君は、言いにくそうに頭を掻いて、そして照れくさそうに話し出した。

「いや、まあその…俺、絶対信じてもらえないと思ってからさ。
多少でも信じてもらえたのが信じられねぇっていうか…それにまさか俺の絵描くとは思ってもなくて、河原には俺っていつも笑って見えてんだなって…少しは、恐怖心なく見えてたんだなって思ったら嬉しかったっていうか…って、なんか俺すげーハズいこと言ってね…」

「…ふふっ」

いつもの笑った顔でもない、いつかの真剣な顔でもない、怖い顔でもない、なんだか可愛らしい一面を見て思わず笑みが零れた。

御幸君って、そんな顔もするんだ。
意外な一面が見れてなんだか嬉しいと感じてる自分がいる。

…不思議、最近までずっと怖いと感じてたはずなのに。

もう一度御幸君の方を見ると、今度はまじまじと私のこと見てて、どうしたらいいのか分からなくてとりあえず視線を逸らした。

「…やっと、俺と話して笑ってくれた」

「え…」

「ははっ、笑った顔可愛いじゃん」

突然の言葉に微かに顔が熱くなるのを感じながら横目で御幸君を見たら、気を遣った愛想笑いでもない、おかしくて吹き出した笑いでもない、無邪気で本当に嬉しそうな顔で笑ってた。

その笑った顔から何故か目を逸らせなくなって、ほんの少しだけトクンと胸が高鳴った気がした。

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