助けたかった
河原を探しに来たはいいけど、どこにいるのかなんて分からない。 それ以前に俺が行ったところで何になる?
河原は男が苦手だ。 しかも俺は一度不登校にさせてしまうところだった。そんな俺が、どうしてやれるって言うんだ。
「…何やってんだかなー俺」
勢いで動いたくせにすぐ意気消沈してちゃ意味ねぇよな。 俺ってこんなに情けない奴だったっけ。
「…友達にもなれないの?」
「…ごめんなさい」
「なんでだよ、おかしいだろただ話すだけなのに」
「…」
「お高く止まって楽しい?」
「っ、ちがっ」
「どこが違うんだよ」
「ひっ…や、やっ!」
「いきなりモテだしていい気になってんだろ」
「その辺にしとけよ」
どうしたもんかなんて考えながら適当に歩いてたら、昇降口近くにいた。最初は俺が出て行っても無駄だと思ってそのまま通り過ぎようかとも思った。 けど相手は食い下がらない上に事情を知らない、だから河原に触れようとした。 手が伸びてきたことで怯えた河原はその場にうずくまる。
まずい、直感で感じ取ってすぐに仲介に入った。
「…なんだよヒーロー気取り?そうやって媚び売るつもりなんだろ」
「悪いけど女一人のためにヘコヘコするような奴になった覚えはないんで」
「…やっぱ付き合ってるって噂は本当なんじゃねーか」
「はっは、そんな噂がいつ流れたか知らないけど俺も河原に触れることも出来ないぜ」
さりげなく河原の前に立つ。間違っても俺から河原に触れることはしない。今だにうずくまったままの河原は震えている。
退けよと言わんばかりの目で見てくる相手は何を思って河原に近づいたんだろうか。 何を思って惚れたんだろうか。 そんな考えがよぎりながら、俺も引かない。
事情も知らずに触れて、また河原が学校へ来れなくなるかもしれない。浅はかな考えで触れて、後悔するかもしれない。 そんな色んな思いから俺は引くことを選ばなかった。
「何なんだよ、俺が河原に迫ろうがお前には関係ないだろ御幸」
「…じゃあ聞くけど、お前は河原のどこに惚れた? 触れた瞬間拒否られて、学校に来なくなったらどうする。まともに話せもしないのに、触れることも出来ないのに、どう絡む。河原が男恐怖症だと知ったらお前はどうする。 …それでもお前は河原が好きだと言いきれるのか?」
「は…なんだよ、男恐怖症って」
「見たら分かるだろ、怖いんだよ男が。 俺は前に髪の毛に触れたことがある。そしたら真っ青になって逃げ出して、次の日から学校に来なくなったぜ? お前はそれに耐えられんのかよ」
「っ…なんだよ、触れるどころか話せもしないんじゃ面白くもなんともねぇ」
俺がしてきたことを自分に置き換えて想像したのか、そいつはさっきまでの勢いはなくなってそそくさと立ち去った。
その程度、だよな。 話したこともないのに惚れた、なんて。
「…やれやれ。 おーい大丈夫か河原」
「っ…」
「あー…俺じゃ怖いよな。 待ってろ、すぐ日野呼んでくるからさ」
「…な、さい…」
「ん?」
「ごめん、なさい…っ」
「え…あ、おい河原!」
何か言ってる河原に耳を傾ければ、意味も分からず謝られて逃げるように走っていってしまった。
取り残された俺は、一瞬思考が停止する。
俺はただ、河原が危ないと思って助けに入ったつもりだった。相手が、俺が、誤って河原に触れてしまわないように気をつけたつもりだった。
礼を言われるならまだしも、何故俺は謝られた?
「…俺はまた、何か余計なことをしたのか」
俺の呟きは周りの雑音にかき消され、後を追いかけることも出来ずに俺はしばらく立ち尽くした。
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