二つの気持ち

今日も、声をかけられる。
昨日に引き続き、今日も男の子から声をかけられる。

やだ、もうやだ …。




[なんかあった?]

いつもの授業中、練習のこととか寮でのこととかいつものくだらないやりとりをしてる時、唐突に御幸君からこんな言葉を書かれた。

いつも通り接してるつもりだったし、まして文字での会話だから変化なんて分かるわけないと思ってた。
けど、見抜かれてしまった。

ちらっと御幸君を見れば、御幸君の方も私を見てて、思わず目を逸らす。

[別になんもないよ]

そう返せば、御幸君もすぐにシャーペン持って返事をしてくる。

[そ?
けど最近男に呼び出されること多いからさ、精神的に参ってんじゃねぇかなって思ったんだけど]

「!」

思わずビクついた。
全部見透かされてるみたいで、一瞬だけど怖さを感じてしまったから。

[大丈夫、いつものようにあしらってるから]

何でもないように振る舞って、笑った顔を描いた。
そして授業は終わり。


授業が終われば私達は赤の他人のようになる。
まったく会話をしないし一緒にいることもない。
それが当たり前だった。

けどその当たり前のことが、今はなんとなく怖かった。
なんでかは分からない。
でも、不安だった。

放課後はいつもなら彩夏と喋ってたりするけど、今日は精神的に疲れたしすぐに帰ることにした。

途中、野球部のグラウンド付近を通る。
既に自主練とかしてる人がいるみたいで、グラウンドは賑やかだ。
…御幸君も、この声の中にいるんだろうか。

「あれ、河原じゃん。今帰り?」

「ひっ…あ…み、ゆきくん…」

耳を澄ませば御幸君の声が聞き取れるかな、なんて考えながら歩いてたら急に目の前に本人が現れて、男の人の声だから咄嗟にビクついてしまった。

「あーわり、また怖がらせちゃった?」

まだまともに話すことは出来ない。
けど首を振ることは出来る。
だから私は苦笑してる御幸君を見て、首を横に振った。

「はは、ならよかった。気を付けて帰れよー」

御幸君も、私に触れることはしない。
こうして話しかけるだけでも、長く話そうとはしない。
全部、気遣ってくれてる、から。


「…不思議。
怖い、はずなのに…」

ヒラヒラと手を振ってグラウンドへ行ってしまう御幸君を見ては、自然と落ち着いてる私がいた。

今まではお守りのクローバーを握り締めて自分を落ち着かせてた。
けど最近の私は、ここ数日の私は、御幸君とのいつものやり取りで落ち着いている。


それが私にとってどれだけ大きな変化なのかは、考えなくても分かること。
でも、だからといって御幸君を完全に信じているわけじゃなかった。

その証拠に今でも御幸君とは直接話せないし、私が急に男の子に声をかけられるようになった原因が御幸君にあるという疑いが、消えていなかったから。

もちろん御幸君じゃないと信じたい気持ちは、ある。
でももしかしたら…って気持ちもある。

だから、御幸君本人に直接聞くことが出来なかった。

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