御守り

昨日、野球部の練習を見て暗くなる前に彩夏と帰った。

そしてまた朝がやってくる。
今日は、文通じゃなくて自分の言葉で御幸君に話しかける日だ。
深呼吸して、自分を落ち着かせる。

いつも筆箱に入れているクローバーを、今日は携帯のストラップとして付けた。
これならいつでも見ることが出来るし、安心するから。

「…まだ時間あるし、ちょっとクローバー探してから行こ」

いつもの通学路にある河川敷。
そこが私のクローバー探しの場所。
雑草とかいっぱい生えてるから、クローバーもいっぱい生えてる。
その中から四つ葉を見つけるのはそれこそ奇跡に等しいと思う。
それでも、私は探し続けてきた。

いつかきっと、私の希望が見つかると信じて。


「うーん…やっぱり、見つからないなあ…」

緊張からか、早めに支度を終えたからその余った時間をこうやってクローバー探しに費やしたけど、やっぱり見つからなかった。
夢中になって、かれこれ30分は探し続けてる。
さすがにそろそろ学校行かないと遅刻ギリギリになってしまうから、今日のところはこれで切り上げた。

私はいつも、学校の門の前で例のクローバーを取り出す。
そしてそれを握りしめて心の中でこう呟く。

今日も私を守ってください、って。

このクローバーは、初めて見つけた時から私を守ってくれてる。
その時からずっと、私の御守り。

クローバーには、幸福という花言葉が含まれている。
四つ葉を見つけたら幸運とはよく聞くけど、三つ葉の花言葉も同じなんだって。
同じクローバーだから。

だからこのクローバーも、私にとっては幸運を呼び寄せてくれるもの、私を守ってくれるもの。

…大丈夫。
今日だって、きっと御幸君と話せるようになる。

「大丈夫、大丈夫だ私。
おはようって、言うだけだから」

無駄に緊張しながら、私は教室へと向かった。
御幸君は、まだ来てない。
彩夏は…鞄はあるけど教室にはいないみたい。

とりあえず自分の席について鞄を置く。
そして携帯を手にとって深呼吸。

これからのことを頭の中で何度もシミュレーションする。

御幸君が来たら、この私の席を横切ったら、おはようって言う。
顔は合わせなくていい。
ただちゃんと聞こえるように言わなきゃいけないだけ。

大丈夫…簡単なことだ、きっと出来る。


「ヒャハハ!今朝のは傑作だったな!」

「まあなー俺もあれには笑った」

御幸君が来る前に彩夏と話して落ち着きたかったけど、廊下から話し声が聞こえてきた。

ど、どうしよう…。

覚悟は決めたはずなのに、手汗が酷くなる。
やっぱり無理…なんて思い始めたそんな時、日の光に照らされて心なしか光って見えたクローバーが俯きかけた私の視界に入った。

たったそれだけなのに、私は勇気を貰った気がした。


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