少しの変化

私が気づいたこと。
それは自分でも分からないことだった。

どうして私はこんなにも御幸君の顔色を伺っているのだろう。
どうして御幸君にこだわるんだろう。

別に無理に御幸君と話そうと、友達になろうとしなくたっていいはずなのに。


御幸君が先生に怒られた後、またいつものように会話した。
そしてその会話の中に、いつもと少し違う話題があった。

[野球に興味あんなら今度練習見に来いよ
話聞くだけより見た方が分かりやすいだろ?
あ、ちなみに今週の日曜には練習試合もあるから]

これを見た時はほんとにびっくりした。
まさか、練習見に来いなんて言われるとはこれっぽっちも思ってなかったから。
どういう経緯で言ってるのか、全然分からない。
もしかしたら何か企んでいるのかもしれない、なんて考えもよぎる。

文面上とはいえ、少しずつ御幸君との会話に慣れてきた今、こんなお誘いを受けるとは予想出来なかった。

確かに、少しだけ御幸君が野球やってるところ見てみたいと思った時もあった。

…でも実際に行動に移せるわけがない。
野球部の練習を見に行くと言うことは、他の野球部にも出会ってしまうということになるから。

そんなの、耐えられるわけがない。
だから実際に見に行こうなんて思ったことはなかった。

でも、別に強制されたわけでもないのに、私は御幸君のお誘いを無視することが出来なかった。


「…ねぇ、彩夏」

「ん?どうしたの茜」

「…野球部の練習、見に行かない?」

「…え?
ど、どうしたの急に。何があったの」

「…御幸君に、誘われたから」

「…嘘、マジ?」

「ほんとだよ、ほらこれ見て」

放課後になって、一緒に帰ろうかなんて彩夏と話をしてた時に、誘ってみた。
一人では無理でも、彩夏が一緒ならなんとか行ける気がしたから。
そりゃ男の子恐怖症な私がいきなり男の子しかいない野球部の練習見に行こうなんて言ったら驚くのは普通だよね。

唖然としてる彩夏に私は今日の御幸君とやり取りをした紙を見せた。
それを見た彩夏はなんだか嬉しそう。

「…茜、頑張ってるじゃん!
文字でしか話してないけどちゃんと普通に会話出来てるじゃん!」

「え…あ、うん。
ちょっとずつ、慣れてきたと言うか…」

「おめでとう!
これは大きな進歩だよ!」

いきなりぎゅって抱き締められてよろめく。
…彩夏って、私の保護者みたいだなって最近よく感じる。


逸れてしまった話を元に戻して、帰る前に彩夏と少しだけ野球部の練習を覗いていくことにした。

正直怖い。すごく。
でも彩夏が隣に居てくれるし、御幸君を見つければすぐに帰るつもりだった。


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