ちゃんと謝る
目を合わせないようにして、下を向いて何言われるんだろうってずっと考えてた。
せっかく、御幸君と一歩近づけた気がしたのに。 どうして彩夏が、また引き離すようなことするのか分からなかった。 もしかして彩夏…御幸君のこと好きなのかな。 だから…
「ヒャハハハ!! なんだこりゃ傑作だな!」
「それ貰っていいよ、御幸君」
「いや、いらねぇんだけど…」
同じ教室にいるから、声が聞こえてくる。 どうしよう、このまま昼休み終わったらまた気まずくなっちゃう。 絶対、怒ってるよね…。
どうしよう、どうしよう、って一人で項垂れてる間に昼休みは終わってしまう。 私の元へ戻ってきた彩夏は今だに笑いつつ満足そうな顔してる。 でも暗くなってる私を見て笑うのをやめて真剣に話しかけてきた。
「大丈夫だって。 御幸君はあんなことで怒るような器の小さい人じゃないよ。変わってるとこあるけどさ」
「…彩夏が見せなければこんなことにはならなかったのに」
「あはは、それはごめん。 でもあれは本人に見せるべきだと思って。でも茜が描いたとは言ってないから」
「…」
「もしバレたら私のせいにして。私が無理矢理描かせたって」
「そんなの、出来るわけがないよ。 いくら彩夏のせいでこんなことになったとはいえ、描いたのは私なわけだから」
そろそろ授業が始まるから、私は自分の席に戻る。 私が席につくと御幸君はすぐに一枚の紙切れを差しだしてきた。 それにビクついてしまいながら、受け取らないなんてこと出来なくて、恐る恐る中身を見てみる。
[あの絵描いたの、河原でしょ?]
ただ一文、そう書かれてあった。
…やっぱりバレてる。 どうすればいいか分からない私は返事を書くことも出来ず、手が震える。
そんな私に、御幸君はまた紙を机の上に置いてきた。
[あー悪い、怖がらせるつもりはなかった 別に怒ってねぇしどうこうしようって思ってるわけじゃないから]
思わず、御幸君の方を見てしまった。 目が合うと、御幸君は小さく笑ってくれた。 初めて見た、なんか穏やかな顔だった。 私を怖がらせまいとしてくれてるのかもしれない。
幾分か気持ちが落ち着いてきた私は、ちゃんと謝ろうって思ってシャーペンを手に取る。
[ごめんなさい 野球部って聞いて、野球少年って坊主頭のイメージあったから好奇心で描いてみたんです 別に悪気があったとかそういうんじゃないんです]
[それは分かってる つかなんで俺だけなの?どうせなら倉持も描いてよ 絶対倉持の方が似合ってるから]
私の書いた手紙の返事がすぐ返ってきて、まさかのリクエストに拍子抜けした。 描くのはかまわないけど、他の人、特に倉持君本人に見られるのは嫌だったから、誰にも見せないっていう条件で描くことになった。
と言ってもいつもやり取りしてる時の落書きみたいなものだから、さほど時間はかからない。 10分もしない内に描き終えて、それを御幸君の机の上に差し出した。
「ぷっ…くく…っ」
絵を見た御幸君は必死で声を出さないようにしながら笑ってる。 …私も、自分で描いててあれだけど、笑ってしまいそうになったのは内緒。
いつまでもプルプルと震えながら笑ってる御幸君。 そ、そんなにツボだったのかな。
「おー御幸、そんなに俺の授業が面白いか。 そうかそうか、ならこの問題をお前に解いてもらおうか」
「げっ…わ、分かりません」
声を押し殺してるとはいえ、ずっと笑ってたからさすがにバレた御幸君は先生に当てられて、周りからクスクスと笑い声が聞こえる。
私のせいで笑われた、んだよね。 だから咄嗟にごめんなさいって紙に書いて渡した。
[河原のせいじゃねーよ けどほんと倉持の坊主は傑作だった お前マジでセンスあるわ笑]
気にしてない様子の御幸君を見て、ホッとした。
そして私は、ふとあることに気づいた。
← | →
戻る |