月の宴



20○△年 9月◇□日
21時23分

晴天。

今夜は絶好の月見日和となるでしょう。
明日は湿度も低く、過ごしやすい一日となるでしょう。












「なー月見しねー?」




9月14日の部活帰り。

それはイベント好きの水谷の一言から始まった。


「あー明日15日だっけ」

「そーいえば」

「もーそんな時期かぁ」


夏休みが終わって2週間。
練習漬けの毎日では日付の感覚も薄れる。


「でもまだだいぶ月欠けてねェ?」

「ホントだー。十五夜って満月だよねぇ?」


阿部と沖が月を見上げて言う。
確かにまだ月は満ちきっていない。


「十五夜って別に15日じゃねーよ?」


なんと意外にも田島が知識を披露した。


「そーなの?」

「おー。じじばばが毎年やってっけど、毎年日にち違うぞ」

「へー知らねかったー」


言い出しっぺの水谷も感心している。
やった事があるのではないのだろうか。


「今年は確か来週だよ」


そう言って西広が補足する。
さすが先生だ。


「じゃーさー、来週みんなで団子とか持って来てグラウンドで月見しよーぜ!」


ハイハーイと手を挙げ、水谷が元気良く提案する。


「じゃーオレすすき持って来る!」


そして田島も乗っかった。


「オレっも、お団子…」


食べたいのか持って来るのか、三橋も乗り気だ。


「いーじゃん、楽しそー」

「オレも団子持って来るー」


栄口と沖もノリノリで続く。


「じじくせー」

「楽しーんかぁ?月眺めるだけだろ」


言葉は批判的だが、阿部と泉も嫌がっている訳ではなさそうだ。


「いんじゃね?たまには」


巣山も同意した。
そして最後の砦である花井。


「…やっぱモモカンに頼むの…オレ、なんだよな?」

「頑張れキャプテン」


うなだれる花井に心無いエールを送る西広。

そして翌日、思ったよりも簡単にモモカンの許可を得た部員達は、来たる十五夜を心待ちにして、毎日満ちゆく月を眺めた。
















「飲み物買って来たよー」


翌週。
練習を終え、待ちに待った月見パーティー開催日。


「わ!ごめんねー重かったっしょー」

「言ってくれれば荷物持ったのにー」

「あはは、大丈夫だよー。ありがとー」


2リットルサイズのペットボトルを5本、見事1人で抱えて来た篠岡を気遣う水谷と西広。


「こんな大量のすすきどっから持って来たんだよ…」

「ウチの周りいっぱい生えてんだ!」


米俵かと思う程のすすきの束を飾る阿部と田島。


「団子こっちに並べていー?」

「いんじゃーん?あ、ソレこっちにちょーだい」


各家から持ち寄った団子や里芋などの月見料理を並べる沖と栄口。


「三橋コレ配って」

「わ、かった!」


飲み物をコップに注ぐ泉。
配る三橋。


「コレは一体…?」

「水谷が持って来た」


謎のラジカセに首を傾げる花井と巣山。


「テキトーに流しとけば?」

「じゃー…ハイ」


花井が電源を入れた所で、大人達の登場。


「みんなー!うどん出来たよー!」

「熱いから気をつけてねー」

『『あっざぁーす!!』』


なんと、学食を借りて月見うどんまで用意してくれたモモカンとシガポ。

ベンチを移動して作った即興テーブルの上に、豪勢に並べられた料理達。

明らかに月より団子なのは言うまでもない。




「じゃあ花井君!」

「っ…それでは…」




ゴホン、と咳ばらいをして大きく息を吸い込む花井。

キラキラと瞳に星を浮かべ、見えない尻尾をブンブン振り回し、おあずけ解除の号令を待つ子犬達。




「うまそう!!」

『『うまそぉ!!いただきます!!!!』』




掛け声と共に凄まじいスピードで減っていく月見料理。
もはや誰も月など見ていない。

本日の主役である満月は
そんな子供達の様子を
ただ悠然と眺めている。


秋の訪れを告げる
鈴虫やコオロギの合唱

風に揺られ奏でる
すすきの音色

13人の朗らかな笑い声に消えた

謎の天気予報。








20○△年 9月◇□日
21時23分

晴天。

今夜は絶好の月見日和となるでしょう。
明日は湿度も低く、過ごしやすい一日となるでしょう。




今日と同じ日は

二度と来ないでしょう。



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