荒船先輩と村上先輩に義理チョコ

〜荒船先輩と村上先輩に義理チョコ〜


対戦ブースをうろうろしていると、また目的の人物を見つけた。ここにいればたぶん全員に会えそうだな、と内心で苦笑する。

声をかけようとすると、先に相手が紅葉に気付いた。


「紅葉、1人でここにいるのは珍しいな」
「本当だな。双子の片割れはどうした?」
「いやいつも一緒に行動してるわけじゃないですよ」


会って早々何てことを言うんだと、紅葉は村上と荒船に向かって堂々と不機嫌を露わにした。


「そうか、悪いな」
「俺が見るときはいつも一緒だけどな」
「わたしも荒船先輩はいつも村上先輩と一緒にいる気がします」
「隊が違うんだからそんなわけねえだろ」
「だったらわたしと公平は階級すら違うんですけど」
「お前ら双子は特別だろ」


しれっと言ってのける荒船にまた眉を寄せると、村上が苦笑した。まあまあと間に入る。


「それで、紅葉はどうしたんだ?ランク戦の相手探してるのか?」
「だったら俺が相手してやるよ」
「嫌です」


にやりと笑った荒船に、紅葉はスパッと言い切った。途端にその笑みは崩れ、眉をぴくっと動かす。紅葉がふいっと顔を背けると、荒船はその頭を掴んだ。


「ほんっとにてめえら兄妹は揃って生意気だなおい」
「ちょ、いいい痛い!痛いんですけど!」
「こら荒船、紅葉は女の子なんだから加減しろよ」
「してやってるよ」
「してない!絶対してない!加減出来ないとかほんっと荒船先輩って…」
「てめその続き言ってみろ?頭握り潰すぞ」
「理不尽!」
「ははははっ」
「村上先輩笑ってないで下さい!」


ばっと何とか荒船の攻撃から抜け出し、村上の方へ移動して距離を取る。村上からの害はないが、助けもあまり期待出来ない。

そんな村上からぽんっと頭を撫でられた。


「大丈夫か?」
「……心配するぐらいなら助けてほしいです」
「いや、紅葉と荒船のやり取りが面白くてついな」


ははっと笑う村上に小さく溜息をつき、目的のものを差し出した。


「これ、どうぞ」
「?」
「バレンタイン、なので。攻撃手のときにお世話になった村上先輩には渡さなきゃと思って…」
「そうか、ありがとうな」
「…いえ」


にこっと笑った村上からすっと視線をそらした。優しさが恥ずかしい。


「おい、お世話になったってんなら俺にも渡すのが筋だろ」
「……まあ、一応お世話になりましたね」
「鋼より俺の方が相手してやっただろうが」
「無理矢理ブースに放り込まれただけですけどね!」


どれだけポイントを取られたことか。思い出しても腹が立つ。けれど、お世話になったのは確かで。


「荒船先輩が、ほ、欲しいって言うんなら…あ、あげないでも…ないです、けど…」
「欲しくはねえけど貰ってやる」
「……欲しくないならいいです」
「だから貰ってやるよ」
「ははっ、素直じゃない同士は大変だな」


村上の言葉に紅葉はふいっと顔を背けた。そしてチョコを取り出して荒船に差し出す。


「……一応用意しちゃったんで、あげます」


視線を向けることなく差し出されたチョコに荒船は小さく笑い、顔をそらす紅葉に自分の帽子をぽすっとかぶせた。


「わっ」


慌てた紅葉の手からチョコをさっと奪い取り、帽子の上から紅葉の頭をぽんっと叩く。少し目深にかぶされた帽子のせいで、紅葉は前が見えない。


「貰ってやるよ。…ありがとな、紅葉」
「…どういたしまして」


どこか素直ではない2人に、村上は微笑ましく笑みを浮かべた。


→陽介と秀次に義理チョコ

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