准兄にチョコ

〜准兄にチョコ〜


「海!」


行くてを阻むように立ち塞がった兄に、海は首を傾げた。


「准兄なに?どうしたの?」
「どうして俺にはチョコをくれないんだ!」


何を必死に言うかと思えば。
ボーダーで1番貰っていると言っても過言ではないのに。


「だって准兄毎年いっっっばい貰ってるじゃん!」
「だからって俺にくれないのか!」
「佐補から貰ってた!」
「海からのが欲しい!」
「私まだ佐補から貰ってない!」
「俺は海からも欲しい!」
「佐補から先に貰うなんてずるい!」
「迅にもあげたんだろう!さっき自慢されたんだ!どうして俺にはくれないんだ!海!」



会話になってない会話を繰り広げる兄妹に近付こうとするものは居らず、終わりのない言い合いが続く。

佐補から、海から、欲しい、貰った、くれ。
何度も同じような言葉が飛ぶ。


「海!まさか…俺にはチョコを用意していないのか…!」
「え?」
「もう兄ちゃんにはくれないのか…!」
「いや用意はしてるけど、准兄毎年チョコばっか食べなきゃいけなくなって身体に悪そうだからあげない方がいいかなって!」
「海からのチョコで体調崩すことはない!」
「他の人のも食べてたら分からないよ!」
「大丈夫だ!」
「なんか准兄なら本当に大丈夫な気がする!」
「当然だ!」
「さすが准兄!凄い!」


流れるように話題がそれ、今度は盛り上がる。やはり関わろうとするものは誰もいない。


「じゃあ准兄がそんなに欲しいならあげる!」
「本当か!」
「後で佐補と副にもあげるしね!准兄だけにあげないのはやっぱり可哀想だから!」
「海…!ありがとう!」


嵐山は海をぎゅっと抱き締め、頬ずりをする。佐補と副の双子たちは嫌がるが、海はどこか嬉しそうにして。


「はい!じゃあこれ准兄の分のチョコね!」
「ああ!ありがとう!大事に食べるからな!」
「ホワイトデー楽しみにしてるからね!」
「おう!任せておけ!」
「それじゃ私は大本命に渡さないといけないから行くよ!」
「大本命…!海にそんな相手がいたのか!よし!兄ちゃんは応援してるぞ!頑張れ海!」
「うん!ありがとう准兄!」


近くで話しているのに近くではない距離感の声は周りに響いて。視線を集めたところでお互いにぎゅっとハグした。


「よし!行ってこい海!」
「うん!これで大丈夫!いってきます!」


何を分け与えたのか、2人はうんっと頷きあい、海は走り出した。それに大きく手を振って送り出す嵐山。

一体今のはなんだったのかと、行き交う隊員たちは疲れたように溜息をついた。


→匡貴さんに本命チョコ!!

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