ゆうきゃんに義理チョコ

〜ゆうきゃんに義理チョコ〜

どんな行動をしても、どこに行っても、何をしていても。結局全て同じ未来に繋がってしまう。なんだこの未来は、と、溜息をつかずにはいられなかった。

どうせなら本部の方が良いだろうと、どこから奴が来ても良いように警戒しながら歩く。さあ、どこから来る。どの未来で来る。



「ゆーーーーうーーーーきゃーーーーーん!!」



来た。

背後から聞こえた大声に背筋に悪寒が走りぶるりと震える。そっちか。そう思いながら振り向き、視界に入ったものに固まる。



「ハッ、ピーっ、バレンっ、タイーーーーンっ!!」



スカートなのにも関わらず高く足をあげ、まるでピッチャーの投球フォームのごとく物を投げた。豪速球のそれは迅の顔の横すれすれを通り過ぎ、さーっと背筋が冷えた気がした。


「あーーー!もうゆうきゃん!どうして私の愛を受け止めてくれないの!」
「愛が重くて…むしろ速くて…」
「ゆうきゃんなら受け止められるよ!」
「いやいや、おれに海の愛を受け止めるなんて無理だからね?というか二宮さん以外は無理でしょ…」
「匡貴さんしか私の愛を受け取れないなんて!ゆうきゃんったら分かってるね!」
「うん、そうだね。じゃあ何でおれに愛の塊ぶつけようとしたのかな」
「ゆうきゃんだから!」


よく分からない応答をしながら近付いてきた海は、またチョコを差し出した。迅は首を傾げる。


「ゆうきゃんに義理チョコだよ!」
「え?あ、うん、ありがとう。でもさっきのは?」
「失敗作!」
「失敗作投げちゃいけません。というか、女の子があんな投げ方しちゃダメでしょ」
「?何で?」
「何でって、海スカートなんだから…見えちゃうよ?」
「大丈夫!パンツ履いてるから!」
「いやそこ?そこなの?」


海の基準がおかしいのは元々だが、その発言はどうなのかと思う。ちょっと考えを改めさせないと…と悩んでいると、またずいっと目の前にチョコを差し出された。


「ゆうきゃんにだよ!」
「…ああ、毎年ありがとな」


ぽんっと頭を撫でると、嬉しそうに笑う海に頬を緩めた。屈託無く笑う顔は昔から変わらない。嵐山と同じように真っ直ぐに育ったことに何故か親のような気持ちになる。


「真っ直ぐすぎておれは大変だけどね」
「ゆうきゃんお疲れだね?」
「んー、まあ今日の対策で色々見てたから疲れたかもなー」
「じゃあゆうきゃんが大好きなこの海ちゃんが癒してあげようか!」
「いや勘弁して?」


本気で言っているのが恐ろしい。
前は自分が嵐山兄妹に振り回される立場だったが、海が二宮というターゲットをロックオンしてから平穏な日々が訪れ、毎日よく眠れる。

巻き込まれている作戦チームたちや二宮には同情するが、決して助けてやろうとは思わない。また自分がターゲットにされるのはごめんだ。


「まあ、みんな満更でもなさそうだからおれは何もしないんだけどね」
「ゆうきゃんゆうきゃん!」
「ん?なに?」


袖をくいくいと引く海に視線を下ろすと、きらきらとした視線で見つめられた。


「ホワイトデー楽しみにしてるからね!ゆうきゃんのいつも凄いから!」
「そりゃ嵐山兄妹が喜ぶものなんて分かりやすいからなぁ…。それより、まだ本命に渡してないんだろ?早く行かないと渡せなくなるよ」
「え!?渡せない未来があるの!?」
「さあ?とにかく早く行きな」
「うん!分かった!それじゃあねゆうきゃん!またねー!また遊んでねー!」
「はいはい。また今度ね」


やれやれと言ったように手を振り送り出した。

渡せない未来などないが、出来るだけ早くいかないときっと本命はご機嫌斜めだろうな、と苦笑しながら。


→准兄にチョコ

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