雅人くんに義理チョコ

〜雅人くんに義理チョコ〜

この時期になると周りからの視線が集まる。それも、ピリピリとしたいつもの視線ではなく、どこかくすぐったいようなむず痒い視線が。

それを感じながらイライラと歩いていると、一際強い感情を受信した。いつも通りのこの感覚。これはあいつしかいない。
はぁぁぁっと大きな溜息をつき、無視して歩き出そうとすると、後ろからドガっと腰に衝撃を受ける。

こいつは絶対殺気なく人を殺れる奴だと改めて実感し、その人物に怒鳴った。


「ぃっでえなくそ!!」
「雅人くんに襲撃成功!」
「お前がくることなんか分かってたんだよ!感情と行動伴ってねえだろ!」
「なんで!私は雅人くん見つけて嬉しくて抱き着いたのに!」
「抱き着いたんじゃなくてタックルしてきたの間違いだろうが!」
「そんなガオガオ怒鳴らないでよ!全く雅人くんは可愛いね!」
「ああ゛!?」


影浦から離れて正面から肩をぽんっと叩く海に、影浦は威嚇するも、相手は全く意に介していない。


「きっと糖分が足りないからイライラしちゃうんだね!」
「お前が俺に絡んでくるからイライラしてんだよ!」
「そんな雅人くんにチョコを恵んであげよう!」
「てっめぇ人の話聞けごら」
「はいこれ!」


会話が出来ないままに話は進み、海は影浦にチョコを差し出した。


「………」
「あれ!照れてる!まさか雅人くん照れてるの!?やだかーわーいーいー!」
「照れてねぇよ!一々うっせぇなお前は!」
「きゃんきゃん吠えちゃって!そんなにこの海ちゃんに構ってほしいんだね!」
「きゃんきゃん言ってねぇし構ってほしくなんかねぇよ!!つかマジ腹立つなくっそうぜぇ!マジうぜぇ!!」
「あ!チョコは義理だからね!」
「聞いてねぇよ!!どうでもいいっつの!!あああああマジでこいつ一遍殺してええええ!!」
「殺したいほど愛してる…!?そんな!雅人くんがそんなこと思ってたなんて!」
「………」
「いだっ!!」


思わず手が出た。割と強めにスパンっと頭を叩く。


「いったい雅人くんひどい!!折角チョコあげたのに!」
「うるせぇさっさとどっか行け!」
「私からのチョコ嬉しいくせに!」
「ああ嬉しいよありがとなくそ!!」
「最後の暴言いらないよ!?」


海から受け取ったチョコを雑に開け、中のチョコを全て口に放り込む。ガリガリと噛み砕き、空になった箱を海に突き返した。


「…甘ぇ」
「ふふふふー、喜んでくれて良かったよ!」
「…うるせぇ」
「雅人くんは本当に優しいね!」
「うるせぇっての」
「ホワイトデー楽しみにしてるよ!」
「勝手に押し付けられてお返しなんかするわけねぇだろ」
「そんなこと言って雅人くんはしっかりお返し用意してくれるの分かってるからね!」
「…うぜぇな。早く行けよ」
「うん!それじゃあねー!」
「……おい海」


自分がどれだけ強く当たってもいつも通りの海を見送ったが、思わず引き止めた。


「なにー?」
「………一応、礼は言っとく」



ありがとな、と小さく小さく呟かれた言葉に、海はにかっと笑った。
どういたしましてー!っと大きく返事をし、スキップするように廊下を進んでいった。


「…柄じゃねぇな」


ガシガシと頭をかいて足を進める。あれだけイライラしていたはずなのに、怒鳴ったせいかどこかスッキリとした気持ちで。


→ゆうきゃんに義理チョコ

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