隠岐孝二17巻登場記念!B


必死に話題を探して話してくる彼女に曖昧に返事をしながら相槌を打つ。興味ないように、つまらないと思っているように。本心はまるで逆なのに。


「それでね…!そこのパンケーキのお店が美味しくて…こ、今度…その…お、隠岐くんと行けたら良いなーっと思って…て…」
「せやな」
「あ、あの…あんまり甘いものとか好きじゃない…?」
「んー、特に好きではないなあ」
「…あ、そっか…ごめんね…」


しゅんっと落ち込んでしまった春に顔がにやけそうになる。自分のことで一喜一憂する姿が愛しくて仕方がない。


「じゃ、じゃあお好み焼きとかどうかな…!」
「おれ明石焼きが好きなんやけど」
「あ、明石焼き…?」
「なんや春、知らへんの?おれの好物やのに」
「あ、えと、ご、ごめんなさい…」


泣きそうになっている表情が堪らない。もっと虐めたくなってしまう。本当に泣いてしまうまで。


「そもそも春はお好み焼きもあんま好きやないやろ?無理せんでええんやで」
「む、無理じゃないよ…!私、隠岐くんが好きなもの好きになるから…!」


胸の前でぐっと両手を握る必死な姿。可愛い。どうしようもなく可愛い。
告白してきたのは春。仕方ないと告白を受けたのは隠岐。けれど、仕方ないなどあるはずがない。ずっとずっと好きだったのだから。
それを伝えていないせいで、隠岐に嫌われないようにと春は必死だ。自分のために必死になる姿に、好きの気持ちが大きくなる一方だった。


「春辛いもん嫌いやろ?おれが辛いもん好き言うたら春も好きになるん?」
「な、なるよ!」
「昆虫採集が趣味とか言うたら?」
「つ、付き合う、よ…!」
「女の子より男が好きや言うても?」
「そ、そんな隠岐くんも受け入れるから…!」
「いやいやいや」


あまりにも必死過ぎる春に苦笑してぽんぽんのその頭を叩く。色々冗談を言ったが、流石に最後のは信じてほしくはない。


「全部ウソやからそんな身構えんといて」
「…う、ウソ…?」
「そ、ウソ」
「えっと…どこから…?」
「んー、春の告白受けたとこからやろか?」
「………え……?」
「あれもウソやで。おれ好きな子おるから」


隠岐の言葉に目を見開いた春は、その瞳からぽろりと涙を零した。一度零れると、次から次へと溢れてくる。ぽろぽろ流れる涙が綺麗で思わず目を細めた。


「…綺麗やな」
「ご、ごめんなさい…!私ばっかり…隠岐くんのこと好きで…!先走ってて…!気付かなくて、ごめんなさい…!」
「何で春が謝るん?」
「私、隠岐くんのことちゃんと、分かってなくて…!自分ばっか楽しんでて…!」
「春、楽しかったんか?おれあんな態度やったのに?」
「…私は、隠岐くんとお話出来るだけで、嬉しい、から…」
「……健気すぎるやろ…」


ぽろぽろ涙を流す春を前に片手で顔を覆った。赤くなる顔は泣いている春には見えていないことに少し安心する。こんな姿、格好悪くて見せられない。


「でも…、隠岐くんの迷惑になるなら、私、もう付きまとわない、から…!」


春が傷ついているはずなのに、隠岐のことを考えての言葉に胸が暖かくなる。こんなに愛しい人が他にいるだろうか。そっと手を伸ばし、零れる涙を拭った。春は驚いて顔を上げる。


「あのときのことはウソやし、おれに好きな子がおるんはホンマやで」
「…っ」
「あのとき、おれ別に付き合ってもええ言うて付き合うたけどそれがウソ。ホンマはめっちゃ嬉しかったわ」
「……え…?」
「春のこと別に好きやないけど付き合うなんて言うたけどそれもウソ。おれの好きな子は春やから」
「…え?…え…?」


きょとんとする春の瞳から涙が止まった。ぱちぱちと訳が分からないというように隠岐を見つめる。


「鈍いとこも好きやけど、いい加減察してくれへん?」
「え、あ、あの…!」
「まあずっとウソついてたおれが悪いんやけどな」
「ごめんね、その、話がよく分からなくて…!」
「まだ分からへんの?」
「ご、ごめんなさい…」
「んー、散々虐めすぎたせいやろか。まあ分からへんのならええわ」
「…?」
「分からせるまでやからな」
「…!お、隠岐く…っ!!」


にこりと人の良い、けれどどこか意地悪な笑みが近付いた。こつんっと額に当たったサンバイザーと、ちゅっと触れた唇。
大きく目を見開く春と、満足そうな隠岐。
全てを理解するには、まだまだ時間が足りないだろう。


end

ーーーーー
ほんと全部突発なんでオチなんかない…
これはかなり不完全燃焼だ…
とりあえず隠岐くんが好きな子を虐めてたら萌えるよねって話!を今度はもっとちゃんと書く…!
隠岐くん17巻登場おめでとう!

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