いたずら

「と…」
「と?」
「と、ととととっ、とりっく…!」
「どうした?」
「〜〜〜っ!!」


ハロウィンの定番の台詞。
それを言わせないように、烏丸は春を壁に追い詰めて顔を近付けた。それだけで顔を真っ赤にして何も言えなくなってしまう春に、僅かに笑みを浮かべる。こんな可愛らしい魔女の仮装をしているのが悪いのだ。虐めたくなるのは仕方がない。


「…は、離れて…くだ、さい…!」
「また敬語か」
「…っ、は、はな、はなれ、て…!か、らすま…く…っ」
「嫌だ」
「!!」


低く耳元で囁かれた。
再び何も言えずにただ顔を真っ赤にして俯く。その反応に気分が良くなる。


「俺に何か言うことがあるんじゃないのか?」
「か、か、烏丸くんが、言わせてくれない…!」
「普通に言えばいいだろ?」
「い、意地悪…!」
「何のことだ」
「うぅ…」


変わらない表情で。けれどどこかいつもより楽しそうに。


「他の人には言ってただろ」
「そう、だけど…」
「俺にも同じように言えば良い」
「で、出来ないです…!」


ばっと見上げ、視線が合うと烏丸は微笑んだ。ぶわっと頬を染めて春は恥ずかしそうに再び視線を落とす。


「ずるい…!」
「そんな格好してるお前の方がずるいだろ」
「え…?」
「衣装を当日まで焦らされてた甲斐があったな。似合ってる」
「へ!?あ、あああ、ありが、とう…」


そっと頬を撫でられ、余計に顔を上げられなくなる。けれどあの台詞を言いたい。
小南も宇佐美も、春が烏丸との距離をもっと縮められるようにとこの衣装を考えてくれたのだから。その期待に応えられるように、もちろん自分のために。


「か、烏丸くん…!」
「どうした?」
「……と、」
「と?」


意を決して烏丸の見上げ、今度は逸らさずに再びハロウィン定番の台詞を言おうとする。必死なその瞳が愛しい。


「と、と…!」
「……」
「と…!とりっおおおあとりーと…!」
「……ふ」
「わ、笑わないで…!」


発音ががたがたのトリックオアトリート。
すっと頬を染めた春に、烏丸は口元に手を当てて視線を逸らす。その肩が小刻みに揺れていることから、笑っているのが分かった。


「……く」
「烏丸くん酷い…!」
「悪い…」
「悪いって思ってない!笑ってるよ!」
「春が可愛いこと言うからな」
「か、可愛いことじゃないよ…!お、お菓子 くれなきゃイタズラしちゃうから…!」
「ああ、してくれ」
「………へ…?」


真顔の烏丸に春はきょとんと見つめ返す。


「……か、烏丸くん…?」
「お菓子ないからイタズラだな。仕方ない」
「え、でもさっき三雲くんたちにお菓子…」
「ない」
「たくさん作りすぎたって…」
「ない」


一切表情を変えず間髪入れずに答える。
後ろの机にお菓子が乗っているはずだとそちらに視線を向けようとしたが、烏丸に視界を遮られる。


「え、えっと…」
「お菓子はないからイタズラしてくれ」
「し、してくれって…!」
「しないのか?なら俺から…」
「す、する!します…!」


すっと顔を近付けてきた烏丸の胸を押した。整った顔が近付いてくるのは心臓に悪い。今の一瞬でばくばくと胸が鼓動している。


「い、イタズラ…」


恐る恐る烏丸を見上げた。
真剣な瞳の烏丸から視線を逸らさないように見つめ返し、ぎゅっと手を握った。そして、意を決して烏丸の服を掴み、ぐっと背伸びをする。

ちゅ、っと頬に触れた感触に、烏丸は大きく目を見開いた。
きつく目を瞑っている春はゆっくり離れると、片目を薄く開いて烏丸を伺う。珍しく動揺で固まる烏丸に頬を緩ませた。


「えへへ、イタズラ成功…かな…?」


頬を染めたままはにかむ春。烏丸は言葉を発することなく、その唇に噛み付くように口付けた。トリックオアトリートなど、言っている余裕はない。
ただ、抑えきれない好きと言う気持ちを、その口付けに乗せて。


End

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ワートリオールナイト行って烏丸京介熱が爆上がりしました←
増やしていきたい…!
京介くんがいたずらって言葉を口にするだけでえろい気がしますね!16歳の色気じゃないよ!好き!!



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