ホワイトデー2016



3月14日の朝、腕の中で眠る柔らかい感触を感じながら、春は目を覚ました。


「……柚宇、起きろー、朝だぞ」


しばらく寝顔を眺めた後、小さく笑みを浮かべて国近の頭を撫でた。小さく身じろいだ国近は目を開けることなくぎゅーっと春に抱き着く。


「柚宇ー、そんなことされるとオレ我慢出来ない」
「……眠い…」
「徹夜でゲームしてるからだろー?折角昨日はオレが休み取れたのにゲームで潰すとか…春さん悲しいなー」
「………」
「おーい寝るなよー。学校遅刻するぞ」


もぞもぞと寝る態勢に入った国近の頭をぽんぽん叩く。


「うー…学校行かないで春さんと寝てたいー…」
「そりゃ嬉しいけど、学校は行きなさいって」
「むー…」
「また本部で会えるだろ?」
「……本部じゃ会いたくなーい」


眠そうながらにどこか不機嫌さを滲ませて国近は春の胸にぐりぐりと頭を寄せた。春は首を傾げる。


「なんでだよ?」
「…だって春さん、ちゃんとみんなにお返しするんでしょー」
「お返し?ああ、ホワイトデーだもんな。そりゃ一応貰ったからには返さないと悪いだろ?」
「春さんが他の子に優しくしてお返し渡してるとこなんか見たくないもん!」
「なんだよ柚宇、ヤキモチか?お前ほんと可愛いやつだなー」
「…だって春さん誰にでも優しいから…」
「別にそんなつもりないけどな…。でもま、オレは柚宇だけが好きだから心配するなって」


そう言いながら国近の頭に口付けを落とす。けれど国近の表情は晴れない。


「それに、お返しはちゃんとクッキーにするからさ」
「??なんで?」
「あれ、お前知らないの?」
「だから何をー!」
「……ふーん、なるほど」


ようやく顔を上げた国近に、にやりと口角を上げた。
見た目はどこまでも女子らしいのに、中身は女子らしさが欠ける。最初はどうかと思ったが、そこがまだ愛しく思え、世話を焼きたくなってしまう。

そして、自分の前でだけは女子らしくさせたいと思ってしまう。


春は国近をやんわりと押し、ベッドから降りた。そしてテーブルに置いてある飴玉を取り、袋を開けて口の中へ放り込む込む。

身体を起こして首を傾げる国近に再び近づくと、ギシっと音を立てて片膝を乗せ、そのまま国近に口付けた。


「んっ」


一瞬驚いたものの、国近は春の服を掴みそれを受け入れた。
触れるだけのキスを何度も繰り返し、国近が口を開けると、ころっと口の中に何かが転がってきた。先ほど春が口に入れたものだろう。それとまとめて舌を舐め取られ、甘い声が漏れた。

最後にぺろっと唇を舐めて離れると、春は愛しそうに国近を見つめた。


「ふあ……飴…?春さん、いきなりなに…?」
「んー?オレからのホワイトデーのお返し」
「えー!飴だけー?」
「飴とキスな」
「全然足りなーい!私たくさんあげたのにー!」
「オレに市販のチョコ渡しといてその態度は凄いなお前」


しっかりと飴を舐めながらもぶーぶーと文句を言う国近に苦笑した。


「もっとちゃんと用意してるって。本部で渡すから、とりあえず早く着替えて学校行けよ」
「…ほーい」


国近に声をかけながら自分も支度をし、さっさと準備をする。


「今日忍田さんに早く来いって言われてたんだった。悪いけど、先に出るな。朝ごはん作ってる暇ねーや」
「んー、これで大丈夫だよー」


国近はベッドの上で美味しそうに飴を舐めている。文句を言いつつも気に入ったようだ。


「それで良いわけないっての。コンビニで何か買ってちゃんと食えよ」
「ほいほーい、いってらっしゃーい」
「いってきまーす。…あ、そうだ、柚宇」
「んー?なにー?」


玄関に向かおうとして立ち止まって振り返り、国近ににやりと笑いかけた。


「ホワイトデーでクッキー、ホワイトデーで飴、後で検索してみろよ」
「んー?」
「はは、じゃあまた本部でな」


そう言って家を出た。
お返しの意味を知らない国近が、それぞれの意味を知って上機嫌で本部へやってくるのが楽しみだ。

にやける顔を抑えきれず、春は本部へと向かった。


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(オチがつけられなかった\(^o^)/)

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