14巻発売記念
「ユーズールー!14巻表紙おめでとー!」
「…っ、ちょ、春さん…」
春がぎゅーっとユズルに抱き着くと、ユズルはうっすらと頬を染めながらも大人しくする。
「さっすがあたしのユズル!影浦を差し置いて表紙を飾るなんて凄いわー!」
「うっせーババア!」
「ぴっちぴちの20歳をババア呼ばわりするんじゃないわよ!」
「ババアじゃねーかよクソババア!」
「こんのクソガキ…!」
「ま、まあまあ2人とも。今日はユズルが表紙を飾ったお祝いなんだから」
「そうだぞ!ゾエお前たまに良いこというな!」
「え、たまに?ヒカリちゃん酷くない?」
「つーかお祝いとか言ってこいつがユズルをベッタベタに甘やかしたいだけだろーが!」
「当たり前でしょ!それの何が悪いのよ!」
「開き直ってんじゃねーよ!隊室飾られ過ぎてきらっきらしてうぜーんだよ!」
「隊長なのに隊員に先に表紙飾られたから悔しいんでしょ!大人気ないわねー」
「んだとこのやろ…!」
わいわい騒ぐ影浦隊のメンバーにユズルは大きく溜息をついた。自分がメインになりたいとは思わないがこのままでは収集がつかなくなりそうだ。自由気ままなメンバーをまとめるため、くいっと春の袖を引いた。
「春さん」
「んー?なぁにーユズルー?」
ワントーン上がった声に、影浦はキモいと吐き捨てた。けれど袖を引く可愛い仕草をするユズルに、春の気持ちはそちらに集中し、にこにこと笑みを浮かべる。
「お祝い、ありがとう。こんなに喜んでもらえるなんて思ってなかったから、嬉しいよ」
「やーー!!もうユズルってばかーわーいーいー!あと5年もすれば絶対もっと良い男になるわね!」
「………」
「いや、あと3年でも良い…!」
「あと3年したらてめーはもっとババアになるな」
「あんたももっとジジイになるわよ!」
「どう転んでもてめーよりは若ぇんだよ!」
また始まった口喧嘩にユズルは再び溜息をつく。
お祝いという名目で集まったが、結局いつも通りだ。
「ちょっとヒカリー!影浦がババアババア酷いんだけど!」
「いやアタシに言われてもな…アタシはカゲよりも春よりも若いし」
「高校生とかなんなのもう!北添!」
「は、はい!」
「あんたもあたしがババアとか言うわけ?」
「いいい言わないよー!春さんまだまだ若いから!ね、ねぇ?ユズル?」
「え?」
突然話を振られてきょとんとする。
全員の視線がユズルに向いていて、どうしたものかと頬をかいた。
「おいババア、ユズルがフォロー出来なくて困ってんぞ」
「あんたは一々うっさいわね!ユズルは口下手なだけなんだから気にしてないわよ!」
そうは言うものの、春はどこかしょんぼりしていて。流石に気にしている歳のネタで弄りすぎたかと仁礼と北添は顔を見合わせた。影浦はふいっとそっぽを向いて口を閉ざす。
「……あたしがあと6歳若かったらユズルと同級生で周りなんか気にせずにイチャイチャ出来たのに…」
春のスキンシップの仕方のせいか、周りからは姉弟としか見られない。気にしていないと言えば嘘になる。むすーっと頬を膨らませ、隊室の隅っこに座り込んでしまった。
「ババアのくせに不貞腐れ方がガキかよ」
「こらカゲ!もうこれ以上春の機嫌損ねること言うな!」
「あー…折角のお祝いだったのにご機嫌斜めだね…」
「………」
唸る北添と仁礼を背にし、ユズルは春に近付いた。すっと目の前に片膝をつく。
「……ユズル」
「春さん、オレ別に春さんの年齢とか気にしてないよ」
「………」
「春さんが同い年でも、10歳以上離れてたとしても、オレは春さんのことを好きになるから」
「!!」
「オレは、今の春さんが好きだよ」
優しく笑みを浮かべたユズルに、春は瞳を潤ませた。そして勢いのままに抱き着く。
「ユズルーーー!!」
しっかりと受け止めたユズルは春の背中をぽんぽんと叩いた。
「ユズルー!ユーズールー!あたしも好きー!大好きー!年齢差なんか気にしないから!あたしはユズルの恋人だから!」
「うん、ありがとう」
「ユズル愛してるー!」
「…うん、オレも」
ぽんぽんと宥めるように背を叩くユズルと、ぎゅーぎゅーと抱き着く春。これではどちらが年上か分かったものではない。
なんとか春の機嫌も直り、2人の雰囲気が良くなったのを見て、北添たちはほっと安堵の息をついた。
「よーし!それじゃゴタゴタもなくなったし!ユズルのお祝いするぞー!」
「ゾエさん飲み物用意するよー」
「おいカゲ!お前も手伝え!」
「わーってるっつの!おいこらバ……春!お前もいつまでもユズルに泣きついてねーでさっさと手伝いやがれ!」
「泣きついてないわよ!ていうかあんたもユズル見習ってたまには女の子の気持ち考えたらどうなの!」
「女の子とかどの口が言ってんだ!」
「何よ!文句あるわけ?」
「いいからお前ら準備しろ!アタシとユズルで全部食っちまうぞ!」
「ヒカリちゃーん、ゾエさんもいるよー」
再び始まった口喧嘩やらの合間に着々と準備が進んでいることに、ユズルは苦笑した。
やはりこれが影浦隊らしい。
まとまりがないようでちゃんとまとまっている。
それが、楽しい。
小さく笑みを浮かべ、ユズルは足を踏み出した。
これから影浦隊全員での、お祝いと称したバカ騒ぎが始まる。
End
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