隠岐の誕生日

隠岐孝二17巻登場記念の年上夢主。

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「誕生日なんだってね。はい、おめでとう」
「え」


あっさりした言葉と仕草で目の前に差し出されたやけに薄いプレゼント。隠岐はぽかんとそれを見つめる。瞬いているだけでなかなかプレゼントを受け取らない隠岐に春は首を傾げた。


「誕生日でしょ?」
「え、ええ、まあ…誕生日ですけど…」
「だから誕生日プレゼント」
「……」
「どうしてそんなに不満そうなのよ」
「そら不満にもなりますよ…こんな落し物渡すみたいなノリやなんて…。彼氏の誕生日ですよ?もうちょいサプライズとかあると思いますやん」
「そう、いらないってことね」
「いやいやいやいります!受け取らせて頂きます!」


しまわれそうになったプレゼントを慌てて受け取った。その行動に春はふっと表情を和らげる。


「あ、今絶対子供っぽい思うたでしょ」
「そうね」
「そこは否定して下さいよー。おれ今日で1つ大人になったんですから」
「それでも私の方が年上なのは変わらないから」
「…ホンマそれ、おれの唯一の悩みですわ」
「唯一?」


繰り返した春に隠岐はにこりと微笑む。その綺麗な笑みを涼しい顔で受け流しながら続きを促した。


「春さんのそういうクールなとこホンマ好きです」
「…そ、そういうのいいから」
「それにさっきまで涼しい顔しとったのにおれの一言に照れちゃう春さんもホンマにカワイイですわ」


好きという一言で頬をうっすらと赤く染めた春をもう少し堪能していたかったが、照れ隠しに鋭い視線を向けてくる瞳に苦笑しながら本題に戻る。


「春さんとの年齢差は唯一の悩みですよ」
「たった1歳でしょ。そこまで気にすること?」
「そら気にしますわ。HR中の春さんや授業中の春さんは同い年やないと見れないやないですか。一緒に入学して卒業してのイベントだって同い年やないと出来ないですし、学祭とか一緒に回るんは出来ますけど、クラスの出し物考えて準備しても同い年限定やろ?他にも同い年やないと見れない春さんがいっぱいおるんです」
「…まあ、そうだろうけど」
「その点においてはおれ、水上先輩にめっちゃヤキモチ焼いてますんで」
「……」


確かに隠岐が例えに出したもの全てに水上の立場が当てはまる。にこにこと笑みを浮かべているものの、言葉に圧があった。春は何とも言えずに小さく溜息をつく。


「バカみたい」
「ヒドっ!おれ本気ですよ!」
「じゃあバカね」
「まあ春さんにゾッコンなんで春さんバカなのは間違いないですわ」
「……プレゼント開けないの?」
「あ、今照れました?」
「……照れてない」
「……」
「ちょ、ちょっと、にやにやしないでよ」
「すんません、嬉しくてつい」


にやけた顔を戻す気もなく、隠岐は春からの視線を受けながらプレゼントを開けていく。とても簡易に包装されてあまり誕生日プレゼントのようには見えない薄い袋。中から出てきたのは大型ショッピングモールで使える商品券だった。あまりに甘さの欠片もないプレゼントに流石にぽかんとそれを見つめて固まる。


「……春さんセンスは良いはずやのに…」
「何?」
「いやー、彼氏の誕生日プレゼントやのに可愛さの欠片もない実用的なプレゼント過ぎてビックリしただけですわ」
「…悪かったわね、可愛さの欠片もなくて」
「その分の可愛さは春さんがくれるんやろ?」
「……」
「春さん?」


いつものようにばっさりと切り捨てられるかと思いきや、春は頬を染めて視線を逸らしている。隠岐はきょとんと春を見つめた。


「……この後…予定ない、けど」
「?おれも特に予定ないですけど」
「……隠岐、買い物好きなんでしょ」
「ええ、まあ」
「……だから、付き合ってあげる」


視線を合わせようとしない春の回りくどい言い回しに、隠岐はやっと気付いた。デートに誘われている、と。そうと気付いた途端に口角が上がるのを抑えられなくなった。


「……プレゼントの本命はこっちか。ホンマ素直やないなぁ」


普通にデートに誘ってくれれば良いものを、商品券を口実にするとは何て可愛らしい人なのだと、ポツリと呟いて愛おしげに春を見つめる。自分が春の誘いを断るなどあるはずがないのに。


「私もあそこのショッピングモールに用あるし、ついでにね」
「あ、おれが春さんちにお泊まり出来るセットでも買ってくれるんです?」
「まだ言ってるの?」
「お泊まりさせてくれるまで言います」
「だったら自分で揃えて」
「それならもう揃えてあるんで春さんの許可次第ですわ」
「……」


何とも用意の良すぎる隠岐に呆れて声も出ない。代わりに小さな溜息が漏れた。


「お泊まりセット以外なら…おれの欲しい物でも買ってくれるんです?」
「……欲しい物、あるの?」
「え?」


溜息で流されると思った言葉が拾われ、隠岐が驚く。春は至って真剣だ。隠岐を想って、いつでも真剣だ。そんな春に愛しさが込み上げてくる。


「欲しい物あるなら…」
「冗談です」


春の言葉を遮り、微笑みながら春の頬に手を添えた。


「欲しいものは、もう手に入っとるんで」
「…!」


隠岐はにこりと笑うと、何事もなかったかのように手を離した。頬に残る熱を感じながら、春は早くなった鼓動を落ち着けるように小さく息を吐く。


「ほな行きましょか。春さんとのデート久しぶりやから時間が惜しいです」
「はいはい」
「普通のデートやなくて春さんがおれの誕生日に考えてくれた特別なデートや思うと嬉しくて嬉しくて…」
「……そう思いたいなら、別に思っても良いけど」
「…ホンマ、素直やない人ですわ」


どちらからともなく繋がれた手を、お互いにきゅっと握り締める。


「……隠岐。誕生日、おめでとう」
「…ありがとうございます。春さんに出会えたお陰で、生まれてきて良かったって心の底から思いますわ」
「大袈裟すぎよ。……それに」
「…!」


繋がれた手を引かれ、バランスを崩して傾くと、頬に柔らかい感触を感じた。一瞬で離れてしまったそれに隠岐はぱちぱちと瞬く。


「……それに、それはこっちの台詞だから」


今日何度目かの祝福の言葉を口にして優しく微笑む春に、隠岐は愛しげに目を細めた。そして先ほどよりも大切なものを扱うように頬に触れる。


「…やっぱそれはこっちの台詞ですよ。大好きです、春さん。これからもガンガン愛情注いで行くんでよろしく頼みますわ」


表情を和らげた春からの返事を聞く前に、その唇を優しく塞いだ。何度誕生日を迎えて年を重ねても、変わらぬ愛を誓うように。


end
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隠岐くんお誕生日おめでとーーー!!
隠岐くんの誕生日発表から初めてお祝い出来る日だと気付いたら書かずにはいられなかった…!久しぶりすぎて関西弁どころか隠岐くんのキャラもアレだしやっぱ難しい…!雰囲気で感じ取って下さい…!
夢主は何回か書いてる隠岐年上夢主で…!色々久しぶりすぎて…!でもお祝い出来て良かった!これからの活躍に期待してるよ…!
隠岐くん好きだー!お誕生日おめでとう!!

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