朝菅と水嶋
※支部に上げた朝菅前提菅水関連。
「……おかしいだろ」
水嶋は呻く。意味が分からない、という顔で菅原を背後から抱いて座っている朝比奈が振り向いた。菅原は寝入っているようで反応しない。
「何がだ?」
朝比奈は小声できょとんと尋ねた。水嶋は苦虫を噛んだような渋面を思わず作る。
「だって……あんたら、付き合ったんだろ」
「ああ」
「じゃ、何で俺はあんたらと一緒にこいつの家にいんの」
「お前が訪ねてきたからだろう」
「そりゃそうですけど」
今日は珍しく晴れだった。特段何か辛くなったわけでもなかったが、水嶋は菅原をおとなう気分になった。菅原がいようがいまいが、合い鍵を渡されているので構わなかった。
真昼から菅原の部屋に入ってみれば、菅原の趣味でない男物の靴が広い玄関に置いてあった。来客かと思い出直そうとしたところに、朝比奈がリビングから出て来たのだった。
朝比奈は水嶋の姿を見ると驚いた顔をしたものの、すぐに笑って水嶋を迎え入れた。室内では菅原がソファに寝ころんで本を読んでいて、ちらりと水嶋を一瞥して「よう」とだけ言ってすぐに本に目を戻してしまった。
朝比奈と菅原の間には確かに――主に朝比奈から――甘い雰囲気が出ているのだが、水嶋を帰すということはしなかった。それぞれ好き勝手に過ごすこと二時間。朝比奈はたまに水嶋にも構ったりして、水嶋には何だかわけのわからない時間だった。
そのうちに菅原が朝比奈に寄りかかって寝てしまって、冒頭に至る。
「朝比奈さんは……知ってんですか」
「ん?」
「その……」
水嶋と菅原に肉体関係があったことを。
聞いてから水嶋は自分がばからしくなった。菅原に抱かれていたのは菅原が朝比奈と恋人になる前までだ。何をしようと自由だろう。なのに何故元恋人と新しい恋人が出くわしたような会話をしているのだろうか。
ぽかんとした朝比奈は少し笑った。
「まあ……本人が言っていたしな。なかなかお前を気に入っているみたいだぞ」
「……は?」
「情がわいた……というだけではなさそうだったな」
「冗談」
菅原の頭を撫でる朝比奈は、切り捨てた水嶋にやわらかく笑んだ。水嶋は言葉に詰まって顔をわずかに逸らす。
――それは、何となく感じていた。ただ傷を舐めあうだけと言うには、少しだけぬるま湯につかるような感じだった。わざわざ合い鍵を渡し、水嶋に似合う着替えも用意し、部屋も勝手に使えなどと言うのだから、もっと別の感情が菅原の中にはあるのだろう。
朝比奈と菅原が恋人になれば、自分たちの不確かで曖昧な関係は終わると思っていた。それは菅原の中に、あえて関係を続けようとするだけの愛着や感情は存在しないだろうと思っていたからだ。
水嶋は軽く息を吐く。――実際には終わりそうにないどころか、もっとわけのわからない関係になっていきそうだった。
どこかぬるま湯のような空間で、水嶋はごろりと寝転がって目を閉じる。きっともう、雨音などは聞こえなくなるのだろう。
それがどうしてか少しだけ、寂しいような気がした。